世の中には、様々な内容の業務委託契約が存在します。売買契約や賃貸借契約等の典型的な契約ではない場合に、なんとなく「業務委託契約書」とタイトルをつけてしまうこともあるのではないでしょうか。
ビジネスではありふれている業務委託契約ですが、民法には業務委託契約という類型の契約についての定めはありません。そのため、契約書で定める条項が重要となります。
また、業務委託契約は、そのほとんどが民法の請負契約または委任(準委任)契約に分類されます。請負契約や委任契約は民法改正の影響も大きいので、今一度、業務委託契約書を見直す必要があります。
そこで、業務委託契約書のポイントや業務委託契約で注意するべき点を解説します。
【目次】
1 業務委託契約書のポイントとは? 2 偽装請負などの労働法上の問題に発展? |
1 業務委託契約書のポイントとは?
(1)請負契約か委任(準委任)契約か?(契約の性質の問題)
前記のとおり、業務委託契約は、そのほとんどが民法の請負契約か委任(準委任)契約に分類されます。そして、いずれの契約に該当するかによって、適用される民法・商法の条文が異なってくることになります。その結果、契約書で定めた内容の結論が変わることがあります。
そのため、締結する業務委託契約が、請負契約であるのかそれとも委任契約となるのかということが重要になります。
ある業務委託契約が、請負契約と委任契約のどちらであるかは、委託する業務の内容が、仕事の完成か(=請負契約)、事務の処理か(=委任契約)によると一般的に考えられています。つまり、契約書の題名で決まるわけではありませんので、仮に「準委任契約書」というタイトルをつけていたとしても、その内容が仕事の完成という業務を委託するものであれば、請負契約となってしまいます。
この点、令和2年に施行された改正民法において、成果報酬型の委任契約(民法648条の2第1項)が新たに追加されたことにより、請負と委任の差異は小さくなりました。そのため、ある業務委託契約が請負契約と委任契約のいずれに該当するかの判断がますます難しくなりました。
もっとも、請負契約か委任契約かで全てが決まるわけではありません。契約の内容は、原則として当事者間で自由に決めることができ、当事者間で定めなかった事項のみ民法が適用されることになります。そのため、契約の内容を契約書でどこまで、どのように定めるかということが大切です。
なお、請負契約か委任契約かによって、印紙税の要否も変わります。請負契約には収入印紙が必要ですが、委任契約には不要です。
「業務委託契約だから」、「準委任契約書というタイトルだから」という理由だけで印紙を貼る必要はないと安易に考えると、後で印紙税を納付していないことを国税庁から指摘されるリスクがあります。国税局に契約の内容が請負契約であると判断されると、納付すべきであった印紙税額の3倍に相当する過怠税が徴収されてしまいますので注意してください。
最近では、コンビニエンスストア事業を営む株式会社ファミリーマートが、フランチャイズチェーン加盟店との取引に関する文書に必要な収入印紙を貼っていなかったことを東京国税局に指摘され、約1億5000万円の過怠税が徴収されたことが報道されています。
⑵ 「契約の目的」を書く必要はある?
契約書の第1条に、「契約の目的」が記載されている契約書を見ることが多いと思います。しかし、この「契約の目的」として、何をどこまで書けばいいのか悩むことも少なくないのではないでしょうか。
「契約の目的」を定める条項は、それだけで権利義務を発生させるものではありません。「契約の目的」に何を書けばいいのか分からなくなる理由はここにあります。
しかし、契約書の他の記載の解釈が問題となったときに、「契約の目的」に遡って判断されることがあります。つまり、「契約の目的」が契約書の文言を巡って紛争となったときに、解決の基準となるときもあります。
例えば、業務委託契約では、業務を完了したときに報酬を支払うとされることがありますが、何をすれば業務を完了したと言えるのかが問題となることが少なくありません。この時に、「契約の目的」から当該業委託契約で行わなければならない業務の内容が解釈されることになります。ちなみに、業務の内容は、報酬の支払いだけでなく、損害賠償請求をするための「債務不履行や契約不適合の有無を判断するとき」にも問題となります。
このように、「契約の目的」がとても重要であることが分かります。
そして、業務の内容を解釈する時には、契約締結の背景や締結に至った経緯が重要となりますので、「契約の目的」の中に盛り込んでおくべきです。
⑶ 報酬の支払時期はいつ?
業務を委託する当事者にとっても、受託する当事者にとっても、報酬の支払いは関心を持っています。特に、報酬の金額については、最大の交渉事項と言っても過言ではなく、業務委託契約書には報酬の金額が明確に記載されます。
しかし、報酬の支払時期についての記載には、注意が払われていない契約書も散見されます。
例えば、業務を完了したときに報酬を支払うことが定められてはいますが、何を行えば業務を完了したと言えるのかが明確でないことがあります。これは、上記⑵で触れた業務の内容が不明確であることにも関連します。
また、成果物を相手方当事者に引き渡すことが業務の内容となっている契約書においても、報酬を支払うのは成果物を納品したときなのか、相手が検収したときなのか、相手の支配エリアに引き渡したときなのかが不明確なものがあります。これは、「納品」や「検収」が法律上の用語ではなく、また、「引渡し」も含めて用語が区別されずに使用されてしまっていることが原因です。そのため、「納品」、「検収」、「引渡し」という用語をきちんと区別して使用し、報酬の支払時期を明確にすることが大切です。
なお、この引渡しなどの用語の区別は、報酬の支払時期だけでなく、危険負担や契約不適合責任の請求期間、履行提供側が債務拘束から解放されるときの判断などにも影響がある重要な事項です。
⑷ 損害賠償条項はどのように定めるべきか?
契約書では、リスクマネジメントとして、万が一トラブルが発生してしまったときのことも定めておく必要があります。トラブルが発生してしまったときの最終的な解決方法は金銭による賠償です。
そのため、ほとんどの契約書では、損害賠償請求に関する条項が定められています。
損害賠償請求については、民法でも定められていますので、契約書に損害賠償請求に関する条項がなくとも、債務不履行などがあれば損害賠償請求をすることができます。しかし、民法の損害賠償請求では、発生した損害の全てをカバーできないことも考えられます。そのため、民法で認められる範囲よりも広く損害賠償請求できるようにするために(逆に範囲を狭める場合にも)、契約書で定めておく場合があります。例えば、債務不履行により損害賠償請求をする場合、自分の弁護士費用は相手に請求できませんので、弁護士費用も請求したいと考える場合には、契約書で損害に弁護士費用を含むことを記載しておかなければなりません。
また、損害賠償責任を負ってしまう場合であっても、支払側にとって甚大な賠償額となり経営が傾いてしまわないように、損害額の上限を定めておくこともあります(システム会社ではこの方法を採用することが多いように思います)。さらに、損害賠償責任を負う場面を、故意または重過失がある場合に限定し、軽過失の場合には免除することを定めることもあります。
これらの条項を定める場合には、取引全体を俯瞰して、責任の全てを自身が負うことにならないかをチェックする必要があります。
例えば、下記の図のように、仕入れた原材料を加工して、販売している企業(A社)において、販売先(乙社)で原材料を原因とするトラブルが発生した場合に、発生した全ての損害を販売先(乙社)に賠償しなければならないことになっているにもかかわらず、原材料の仕入れ先(甲社)には一定額しか損害賠償できないこととなっていると、損害の一部を負担しなければならなくなってしまいます。
これは、一つの契約書をチェックするだけではリスクを把握することができず、取引全体を俯瞰しなければ把握できない典型例です。
2 労働法上の問題に発展?
⑴ 偽装請負とは?
業務委託契約では、実際に業務を実施する受託者の従業員との関係が問題となることがあります。
すなわち、委託者が受託者の従業員に対して、業務遂行について直接指示・管理してしまうと、偽装請負となってしまうという問題です。偽装請負に当たると、労働者派遣法違反となり刑事罰が課される可能性があります。また、委託者が受託者の従業員に対して直接雇用契約の申込みをしたものとみなされてしまう可能性があります(労働者派遣法40条の6第1項)。
適法な請負契約か、偽装請負(実質が労働者派遣)かの区別については、厚生労働省が基準を示しており、裁判所もこれを参照して判断しています(最近では、東リ事件(大阪高判令和3年11月4日があります。))。そのため、この厚生労働省の基準に照らして、偽装請負に当たらないようにする必要があります。
この厚生労働省の基準では、簡単に言うと、受託者の労働者に対する委託者の直接の指揮命令の有無がメルクマールとなっています。詳しくは、こちらのリンクから厚生労働省の基準をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000780136.pdf
なお、契約書において、偽装請負と指摘されないような内容にすることは当然ですが、実態が契約書に合っておらず、偽装請負となってしまっていることもあります。そのため、業務遂行の実態がその契約書の内容と齟齬のないよう注意して、偽装請負に該当しないようにする必要があります。
⑵ 個人事業主との業務委託契約も労働問題に?
偽装請負の問題は、企業間における業務委託契約での労働法の問題でした。これに対して、企業と個人との業務委託契約においても、同じように労働法の問題となることがあります。
すなわち、企業が個人事業主に対して業務委託を行ったけれども、その実態が雇用関係であることから、労働法が適用されてしまうという問題です。
これまでは、上記⑴の偽装請負が問題となることが多かったです。しかし、働き方の多様化で副業者・兼業者(フリーランスやギグワーカーなど)が増えてきたことにより、個人事業主との業務委託と労働法の問題が増えてくることが予想されます。
なお、フリーランスとの業務委託が雇用契約となるかについては、委託者による業務遂行の指揮監督が重要な基準とされています。詳しくは、厚生労働省などが公表している「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000759477.pdf
また、ギグワーカーの業務委託については、裁判例の蓄積が待たれますが、偽装請負やフリーランスと同様に、委託者による業務遂行に対する指揮監督がメルクマールになると考えられます。
最近では、東京都労働委員会が「ウーバー配達員」を労働組合法の労働者とする決定を出しました。これは中央労働委員会に行くかもしれませんし、確定した結論ではありませんが、労働者性についての実務が流動的になっていることを示していると思われ、要注意です。この事件の争点は、①ウーバー配達員が労働組合法上の労働者に当たるか、②ウーバー配達員と契約関係にあるウーバー・イーツ・ジャパン合同会社から業務委託を受けてサポート業務を行っていたウーバー・ジャパン株式会社も労働組合法上の使用者に当たるか、③ウーバー配達員の労働組合が申し入れた団体交渉に応じなかったことが正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか、の3点です。詳細は以下の東京都労働委員会のホームページをご確認ください。
https://www.toroui.metro.tokyo.lg.jp/image/2022/meirei2-24.html
3 下請法が問題となる場合とは?
一般的に、業務委託契約の受託者は、委託者に比べて企業規模が小さいことが多く、下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」といいます。)の適用がある場合が多いと考えられます。そのため、業務委託契約を締結する際には、下請法の適用があるか否かを確認し、適用がある場合には下請法に違反しないよう契約書の内容を確認する必要があります。
下請法の対象となる取引は、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託の4つで、それぞれの類型ごとに、親事業者と下請事業者の資本金の額によって下請法の対象が定められています(下請法2条7項)。これをまとめると、以下の表になります。
(中小企業庁公表「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」10頁参照)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2014/140619shitauke.pdf
下請法が適用される取引では、以下のことが親事業者の義務とされ、また親事業者の禁止事項とされます。これらに違反した場合には、刑事罰や行政による勧告等の対象となることがあります。
義
務 |
下請代金の支払期日を定める義務 | 下請法2条の2 |
書面の交付義務 | 下請法3条 | |
遅延利息の支払義務 | 下請法4条の2 | |
書類の作成・保存義務 | 下請法5条 | |
下請代金の減額の禁止 | 下請法4条1項3号 | |
禁
止 事 項 |
受領拒否の禁止 | 下請法4条1項1号 |
下請代金の支払遅延の禁止 | 下請法4条1項2号 | |
返品の禁止 | 下請法4条1項4号 | |
買いたたきの禁止 | 下請法4条1項5号 | |
物の購入強制・役務の利用提供要請の禁止 | 下請法4条1項6号 | |
報復措置の禁止 | 下請法4条1項7号 | |
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止 | 下請法4条2項1号 | |
割引困難な手形の交付の禁止 | 下請法4条2項2号 | |
不当な経済上の利益の提供要請の禁止 | 下請法4条2項3号 | |
不当なやり直し等の禁止 | 下請法4条2項4号 |
以上については、公正取引委員会が公表している通達で詳しく解説されておりますので、こちらもご参照ください。
https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/unyou.html
4 業務委託契約書に関するご相談は当事務所へ
以上のように、ビジネスで当たり前に締結している業務委託契約書も、法律的な観点から注意すべきポイントが多くあります。チェックをせずに締結してしまい、トラブルが発生したときに予期せぬ損害を被る可能性もあります。
当事務所では、契約書審査(リーガルチェック・レビュー)を取扱分野の一つの柱として重視しております。弁護士が、法律の専門家として業務委託契約書をリーガルチェックし、企業が予期せぬ損害を受けないようにいたします。そのため、企業の皆様には、弁護士のリーガルチェックを踏まえて、ビジネスを進めていただくことができます。
業務委託契約書で気になることがありましたら、当事務所へご相談ください。
なお、当事務所では、顧問契約とは別に、契約書審査に特化したアウトソーシングプランを用意しております。すでに顧問弁護士がいらっしゃる企業様も、こちらのアウトソーシングプランをご利用いただけます。詳細は、以下のページをご覧ください。
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