少し古くなりましたが「ヒト・モノ・カネ」という言葉があります。経営資源3要素のことです。そして「ヒト」は「モノ・カネ」の前にあります。
「ヒト」がいなければ仕事はできません。
経営にとって「ヒト」は最重要事項です。経営で一番大事なのは人材ということです。
そのため人事労務に関するルール(労働法)は常に経営に直結する重要事項となります。
つまり、労働法は経営を人事労務面から支え、人材活用を通じて企業活動を維持・向上させる経営のための最重要法律なのです。
また、人事労務はどのようなコンプライアンス優良企業であっても問題が生じ得ます。
病に例えれば、風邪のように罹りやすいものといえます。
しかし、「風邪は万病の元」という言葉のとおり、労働法違反を軽視すると、企業経営は厳しい代償を払うことになります。健全で確実な繁栄を目指す企業は労働法について常に留意し、もし違反があればすみやかに改善する姿勢が不可欠になります。そのような方針、実践こそが、重要な経営要素である人事を強化し、企業経営を盤石にするからです。
現在のビジネス環境は変化が非常に早く、優良な企業ほど経営(その一部である人事労務)が早く大きく変化しております。
「働き方改革」、「同一労働同一賃金(近時立て続けに多数の最高裁判決が出ております)」、「パワーハラスメントの法制化」などがその好例といえましょうし、今後は、コロナ対策としてのテレワーク対応(情報管理を含めて)や日本的ジョブ型雇用をどのように活用するか(企業業績向上に活用するか)も、低迷している日本経済の復活のために重要な経営課題になることでしょう。
このように、労働法は元々の守備範囲が他の法領域より広範ですし(実務家愛用の労働法令集には約80法令が厳選収録されています)、労働基準法には多数の通達もあります。
それだけでなく、労使ともに生身の人間ですから、相互の感覚的感情的齟齬(相互の常識の不一致)なども生じやすく、紛争が多発しやすい法領域です。実際に裁判例(判決)は他の法律より多いと感じています。
しかも紛争が裁判になれば、労働法が労働者保護の観点から制定されているため、紛争の判断基準も労使平等ではなく、労働者優位で判断されることが通例です。
私は企業から依頼されることがほとんどのため、依頼者に対しては「労働裁判は自由主義ではなく、緩やかな社会主義で判断されます。」という説明をしております。
また、ユニオンとの団体交渉も労働法の実務対応として重要事項になります。
当事務所はこれまで非常に多くのユニオンと、数多くの団体交渉を経験しております(回数自体は正確なカウントをしておりませんが、50回超100回未満とお考えください)。
また、ユニオン申立の不当労働行為事案も東京都労働委員会その他地域の労働委員会において相当数経験があります。中央労働委員会案件も2件経験(1件は勝利)しております。
ユニオンの街宣行動やネット記載行動への対応も相当程度の経験数を有しております。
2020年はユニオン団体交渉は全てZoomなどウェブ会議でしたが、2021年以降もユニオンとの団体交渉はウェブが主流になるかもしれず、その場合は遠隔地事案であっても団体交渉及びユニオン交渉は可能と考えております。
労働法は頻繁に法改正があり、重要判例が続出しております。他方で、企業は就業規則についてアップデートの必要性を感じていながら、具体的改訂に着手できていないという声をよく耳にします。就業規則は人事労務の要となる重要規定です。問題が生じる前に最適な就業規則に改定されることは企業価値向上の戦略的手法として、また企業危機管理の定石手法として大変有益です。もちろん、当事務所ではお客様のご要望をよくお聞きした上で、社内事情に適した就業規則のご提案をさせていただいております。
労働法違反の問題は、経営者や経営幹部取締役の皆様を気分的に悩ませ、客観的には経営者側の貴重な活動時間を消耗する、といった事態につながることが少なくありません。また1人の労務問題が、実は単独1人名だけの問題ではなく、全社員にも当てはまる大問題という深刻な場合もあります(1人の問題=将来の全社員の問題リスク)。
また労働法問題は、社員従業員の勤労モチベーションに悪影響を及ぼすときもあります。労働法違反の経営的意味合いはそれだけではありません。
例えば、経営者が引退し全事業を規模の大きな企業に引き受けてもらう事業承継型M&Aや企業の存続維持発展のための通常M&Aの際には、常に価格決定が重要事項になります。その際は「法的買収監査」いわゆる法務デューデリジェンスを実施することが通例です。
その「法的買収監査」の際は、今現在は労働法問題が起きていなくても、買収後に誰かが労働法違反を主張して想定外の支出や活動制限になるといった恐れはないか、を慎重に調査します(なお、法的買収監査の際の労働関係のデューデリジェンスを「労務デューデリジェンス」と呼ぶこともあります)。
そして、もしそのような将来の労務リスクが発見されれば、たとえ今現在は労務問題が顕在化していなくても、買収価格はそのリスクに応じて減少します。例えば、誰も従業員が主張をしていなくても、法律的に未払い残業代があれば、買収価格は未払い残業代を考慮して相当程度減額されるという展開になりやすいです。
いやいや、今はM&Aは考えていないという経営者は多いと思います。しかし、コロナウイルスによる突然の企業状況の変化を見るまでもなく、会社のビジネス環境や経営者ご自身の人生事情は、いつどのような変化が起きるか、誰にもわかりません。
急遽M&Aを検討せざるを得なくなった、という時でも、常日頃から労務課題や労務リスクについて十分な法務対応をしていれば、企業が本来有している企業価値を毀損することなく、物事は無事にスムーズに進むことでしょう。
また、M&Aでは、それが完了した後が大変です。M&Aの成立後は、社風や組織への帰属意識などの心と気持ちの融合活動が非常に大事だからです。
それに加えて、旧会社(譲受けた会社)の労働ルールの変更も非常に多くなります。諸手当や退職金制度、定年・再雇用制度など、それぞれの会社で就業規則が異なるため、これをどう調整するか、それはまさに労働法の問題です。これらを従業員に有利な側のルールで統一すれば従業員の反発は出ませんが、経営は苦しくなります。他方で、これらを従業員に不利な側のルールで統一すれば労働条件が悪化する従業員の反発は出るでしょうし、就業規則の変更それ自体が違法と判断されるかもしれません。そうなったら従業員の労働意欲の低下や、企業の評判(レピュテーション)の悪化も含めて企業価値の下落・毀損は無視できないものになることでしょう。
ご承知のように労働法を扱う弁護士は労働者側弁護士、企業側弁護士に大別されます。その中で、当事務所は単に企業側弁護士であるだけでなく、常に顧客企業の企業価値を第一に考え、「労務から企業価値を高める」ことを常に考えています。特に、会社法と労働法の両方の検討が必要かつ有益な場面ではお客様に十分な貢献をなしえるものと自負しております。
当事務所は、お客様の事業規模、社内体制、主要取引先、業界事情、関係者皆様の諸事情までも詳しくお聞きし、一般的な労働法リスクだけでなく、お客様固有事情に起因する労働法リスク、顕在化していないが解決すべき労働法リスク等への対処法を検討し、お客様の短期的利益、中期的利益だけでなく、永続的長期的繁栄のための提言も含めて、可能な限りお客様の危機回避と力強い繁栄に貢献するための諸活動をさせていただくつもりでおります。
当事務所は人事労務問題が経営における重要事項であることを直視し、プロフェッショナルとして経営者に親身によりそい、労務問題の解決と企業の健全な発展に貢献するつもりでおります。
以上が当事務所の労働法に関する考え方です。
よろしくお願いいたします。
吉田総合法律事務所一同を代表して
代表弁護士吉田良夫