法務局における自筆証書遺言保管制度がスタート

2020年7月8日 弁護士 吉田良夫

本年7月10日より「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が施行され、これまでは自宅にて保管されることの多かった自筆証書による遺言書について、公的機関である法務局にて保管ができる制度が始まりました。
(参考 法務省HP 法務局における自筆証書遺言書保管制度について

この新しい制度について、以下のメリットが挙げられます。

≪メリット①:遺言書の紛失・改ざんリスクの防止≫

法務局にて自筆証書遺言を保管してもらうことで、遺言書が紛失・亡失されることを防ぎ、また、相続人等の関係者による遺言書の改ざん、廃棄、隠匿などのリスクも防ぐことができ、安心して確実に遺言を残すことができます。

≪メリット②:家裁での検認申立が不要≫

自筆証書遺言については、遺言者が亡くなると、遅滞なく遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所において、遺言書の存在や内容を相続人に知らせ、偽装・変造を防ぐ「検認の申立」という手続が必要です(民法1004条)。
しかし、今回の法務局にて保管される自筆証書遺言については、この検認の申立手続が不要となり、残された関係者や相続人の負担が少なくなります。

≪メリット③:公正証書遺言作成より費用が安い≫

遺言の安全性、確実性から公証役場にて公証人が作成する公正証書遺言を作成される方も多くいらっしゃいます。
公証役場において公証人が作成する公正証書遺言は、財産(遺産)の金額や条件によって変動するので参考程度となりますが、財産1億円で約5~15万円程かかると言われています。その点、法務局にて自筆証書遺言を保管してもらう際の手数料は1通につき3900円と費用はかなり安くおさえることができます。

このように、メリットも多い「法務局における自筆証書遺言の保管制度」ですが、当事務所としては従来の公正証書遺言作成の存在意義・メリットも十分あると考えております。具体的には以下のとおりです。

≪遺言者ご本人が外出できない場合≫

法務局における自筆証書遺言の保管制度を利用するためには、予約の上、遺言者ご本人が法務局に出向く必要があります。また、全ての法務局がこの保管制度を扱っている訳ではなく、特定の法務局に限られています。
(参考 法務省HP 法務局遺言書保管所一覧

また、遺言書を預けることができる法務局は以下いずれかに該当する法務局となります。
1.遺言者の住所地を管轄する法務局
2.遺言者の本籍地を管轄する法務局
3、遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局
(参考 法務省HP 遺言書保管所管轄一覧

遺言者ご本人がご病気等の事情で外出が困難な場合、公正証書遺言作成であれば、出張料をお支払いいただくことで公証人がご自宅や施設等へ出張の上、対応してもらうことができます。ご高齢や持病のある遺言者様にとっては、この点は公正証書遺言作成の大きなメリットとなります。

≪遺言文書作成の負担≫

自筆証書遺言作成の際、本文についてはご自分で自書する必要があります。
ご自分としては自筆証書遺言の文言は誰が読んでも明確にわかる内容のはずだと思っていても、相続発生後に遺言執行する段階で、その内容が曖昧で、遺産の帰属が明確にならないため、その部分だけ遺産分割協議が必要になるといった事態がありえるかもしれません。

また、法務局で保管してもらうためには、法務省令(法務局における遺言書の保管等に関する省令)が定めた作成様式で作成する必要があります
(参考 法務省HP 自筆証書遺言書の様式等についての注意事項

その点、公正証書遺言であれば、遺言内容の趣旨(どの財産を誰に相続させるか等)を公証人に伝えることで、専門家である公証人が内容に疑義が生じない遺言書案を作成してくれますから、前記の心配がなくなります。

≪遺言者の意思確認≫

法務局での保管制度を利用した自筆証書遺言であっても、法務局は遺言書の形式的な部分(本人であるか、名前、日付が書かれているか等)の確認のみを行い、遺言書の内容についての確認・アドバイスは行いません。
その点、公正証書遺言作成時には、公証人は事前に文案を作成し、当日は遺言者に遺言内容一つ一つを口述(筆談、通訳を介しても可)してもらうことで遺言の意思確認をしながら、公正証書遺言を作成します。その際、証人2名も立ち合います。
このことを考えますと、相続発生後に、相続人間で「その遺言は本当に本人の意思に基づくものか、遺言は無効ではないのか?」という争いになった場合には、公正証書遺言は相当強い証拠となりますので、相続発生後の紛争予防になると考えられます。

これまでのご説明のとおり、「法務局による自筆証書遺言保管制度」にも「公正証書遺言」にも、メリットと、デメリットとは申しませんが負担または課題は残ります。

吉田総合法律事務所は、ご相談者のご希望を重視し、どちらの制度にも対応する方針です。
遺言者様のお悩み事やご希望など、お話を丁寧にお聞きし、遺言者様に合ったサービスを提供し、納得のいく遺言書作成のお手伝いをさせていただきますので、遺言書作成をお考えの際には、ぜひお気軽にご相談ください。

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