A1
働き方の多様化が進み、副業・兼業を希望する人や副業・兼業を認める企業が増加しています。
企業においても、副業・兼業を認めることは、①優秀な人材の獲得・流出を防止でき競争力が向上する、②労働者が新たな知識・情報や人脈を得ることで事業機会の拡大につながるなどのメリットを得られます。
また、副業・兼業が問題となった裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であるとされています。そのため、企業は、原則として副業・兼業を認めつつ、労務提供上の支障がある場合や業務上の秘密が漏えいする場合などの副業・兼業を制限する合理的な理由がある場合に限り、副業・兼業を制限することができるにすぎないというのが裁判例の立場になります。
このような裁判例を受けて、厚労省は、就業規則でも原則として副業・兼業を認め、例外的に副業・兼業を禁止する場合を明記しておくことが望ましいという見解に立っています。
もっとも、副業・兼業を認める場合には、企業が対応しなければならない点もあります。
この点、厚生労働省が、「副業・兼業の促進に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます。)」を策定しており、この中で、企業の対応における留意点として、①安全配慮義務、②秘密保持義務、③競業避止義務、④誠実義務を指摘しています。
QA2からQA4でそれぞれ詳細に解説します。
なお、副業・兼業に関する詳細につきましては、厚労省が公表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」や「パンフレット」をご参照ください。
A2
A1記載のとおり、厚労省のガイドラインでは、副業・兼業を認める場合の企業の対応における留意点として、安全配慮義務を指摘しています。
副業・兼業との関係での安全配慮義務が問題となる場面としては、労働者の全体としての業務量・労働時間が過重であることを企業が把握しながら、何らの配慮をしないまま、労働者の健康に支障が生じた場合が挙げられます。
このことから、企業は、労働者が行う副業・兼業の業務内容や労働時間を把握し、過重労働とならないよう配慮しなければなりません。
また、企業は、自らの事業場における労働時間と副業・兼業先の事業場における労働時間を通算して管理しなければなりません(労働基準法38条1項)。そして、時間外労働があれば、必要に応じて割増賃金を支払わなければなりません(本業の企業と副業・兼業先の企業のいずれに割増賃金を支払う義務が発生するかは、ガイドライン13頁で説明されておりますので、ご確認ください。)。
労働者の副業・兼業の労務実態を把握するためにも、副業・兼業を届出制にし、届出書には副業・兼業先の業務内容や所定労働時間を記載させるとともに、定期的に副業・兼業の勤務実績を報告させることが必要となります。
副業・兼業の場合における労働時間の管理については、厚生労働省から通達も出ておりますので、ガイドラインと併せてご参照ください。
また、副業・兼業に関する届出書や合意書の書式についても、厚労省が公表しておりますので、ご参照ください。
A3
労働者は、労働契約法上、使用者の業務上の秘密を守る義務を負っています(秘密保持義務)。
副業・兼業を行う際には、本業で獲得した能力等を利用することもあり、労働者がこの秘密保持義務に違反してしまう場面も少なくありません。
ひとたび業務上の秘密が漏えいしてしまうと、企業への損失は計り知れず、場合によっては回復不能となってしまうことも考えられます。
そこで、副業・兼業を認める際には、業務上の秘密が漏えいしないよう対策を講じることが必要です。
具体的には、
が考えられます。届出書で副業先の概要を把握し、もし副業先の業務が漏えいのリスクが高い場合は、特に個別に注意喚起をすることが望ましいように思われます。
なお、厚労省は副業・兼業に関する条項を入れ込んだ「モデル就業規則」を公表しておりますので、こちらもご参照ください。
また、副業・兼業は、本業の経験や知識を活かして行われることが多いことから、営業秘密が漏えいしてしまうリスクが大きくなっています。不正競争防止法の営業秘密についてはこちらのページをご覧ください。
A4
上記A1記載のとおり、厚労省のガイドラインでは、副業・兼業を認める際に企業が留意する点として、競業避止義務と誠実義務も指摘しています。
まず、競業避止義務が副業・兼業との関係で問題となるのは、副業・兼業先が競合関係となる企業であって労働者自身が競業避止義務違反となる場合と、他の企業で本業を行っている人物を雇って従事させることによって他の企業との関係で当該人物に競業避止義務違反が生ずる場合が挙げられます。
また、労働者は、企業に対して、企業の名誉・信頼を毀損しないなど誠実に行動しなければならないという誠実義務を負っています。労働者が副業・兼業した場合に、その業務内容等によっては、誠実義務に違反することとなることもありますので、企業としては、それを予防する必要があります。
以上のことから、企業が副業・兼業を認める際には、
が必要となります。
なお、厚労省は副業・兼業に関する条項を入れ込んだ「モデル就業規則」を公表しておりますので、こちらもご参照ください。
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