[第18号] 我々は感情の動物(生き物)

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吉田良夫メールマガジン [第18号]
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今月のメルマガ              2017年2月
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◆「我々は感情の動物(生き物)」
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皆様

皆様の2月はいかがでしたか。
そろそろ啓蟄(けいちつ)の時期です。啓蟄とは冬ごもりしていた
虫が春の暖かさを感じて、地中から外に這い出てくるころという意味で、
現在の我々の暦(太陽暦)では3月5日または3月6日がこの日に
当たるそうです。私は父からこの言葉を教わりました。
そのためか啓蟄という言葉は私を懐かしさとか暖かさといった気持ち
(感情)にさせてくれます。

この感情についてのことですが、昨年末に書店でたまたま目にした
本の一節をご紹介させてください。

司馬遼太郎氏の「ビジネスエリートの新論語」(文春新書 2016年
12月10日第一刷)で昔の書籍の復刻版です。
その99頁から数頁なのですが、私の目線で引用させてください。

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われらは、論理の動物を扱っているのではなく感情の動物を
あつかっているのである。しかもその動物は偏見に満ち、
誇りと虚栄心に燃えている動物である。〈D・カーネギー〉

…中略…

要するに、批評、非難、叱責という行為は上下のいかんに
かかわらず、すべての職業人に対して避けたほうがいいと
いうことだ。

1863年7月南北戦争の当時、北軍の将ミード将軍は、敵将リー
の退路を断って全南軍を殲滅しうるチャンスをにぎって
いながらむなしく時を失した。南北戦争中、北軍の犯した
最大の失策であると、こんにち、先史家も認めている。
当時、大統領リンカーンはきわめて穏やかな問責の手紙を
書き上げたが、再考のうえ、ついに送らなかった。
リンカーン死後、彼の書類箱の底から出てきて、初めて世間は
その事実を知ったという。

リンカーンというのは、じつに人心の機微を知りぬいた偉大な
人間通だったといわれている。おそらく手紙を送れば
ミード将軍は弁解これ務めるだろう。たとえ弁解しなくても、
その感情をそこない、自尊心を傷つけ、士気を喪失するに
きまっている。
この一時を読みとっただけでも、彼はただの政治家では
なかったのだ。

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「リンカーンが何も言わなかった」から、将軍は自尊心、権威を
守ることができ、重大な失策の後でも戦闘を冷静に戦うことができ、
勝利することができたような気がします。

南北戦争の勝敗という極めて重要な局面での将軍の失策です。
リンカーンはどれほど「物を言いたかったか」と思います。
特に人間は「言いたがる動物」で、他人のことなどお構いなしに、
自分の気分だけで「しゃべる、言う」というのが普通ですから。

しかし、リンカーンは先の先まで見通して、「黙る」ことを選択した
のでしょうね。
そして、「黙る」と決めた以上、南北戦争が終わっても終生
「何も言わなかった」。

推測ですが、リンカーンは、どんなにミード将軍に気をつかっても
手紙を出せば、将軍が
「その感情をそこない、自尊心を傷つけ、士気を喪失する」
ことは間違いなく、それにより戦局を悪くするだけで
良いことは何もないと判断したのでしょうね。

私の頭の中の国語辞典には「人心の機微」というフレーズはあるのですが、
その中身は漠然としたものでした。
ですが、司馬遼太郎氏が教えてくれたリンカーンの話により、
「人心の機微」という複雑微妙なこの言葉がすこしだけわかったような
気がしました。

もちろん、言うべき時は言う、動くときは動く、そのことは忘れては
いけないと思います。リンカーンは言うべきことはいい、やるべきことは
やりましたからね。

そのうえで、今日のリンカーンのお話は私にとってとても勉強になりましたので、
皆様にもご紹介したいと思ったしだいです。
いかがでしたでしょうか。

これからも皆様とのご縁を大切にし、読んでいただけるメルマガに
していきたいと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします。
お読みいただきありがとうございました。

 

吉田 良夫