2022年道路交通法改正とは?~白ナンバー車使用事業者のアルコールチェック義務化へ~

近時、飲酒検査に関する道路交通法の改正についてご質問をいただく機会があり、道路交通法及び同施行規則を確認しました。事業を行う方々に広く関係する法改正ですので、ご紹介します。  

 

Q1道路交通法施行規則が改正されて、白ナンバーの車を使用する事業者もアルコールチェック(飲酒検査)が義務付けられると聞きましたが、改正の内容を教えてください。

A1 これまでは、営業用自動車(いわゆる緑ナンバー車)を使用する事業者についてのみ、アルコールチェックが義務付けられていました。しかし、道路交通法施行規則が改正されて、自家用自動車(いわゆる白ナンバー車)を使用する事業者もアルコールチェックなどを行わなければならなくなりました。 まず2022年4月1日からは、事業者が選任した安全運転管理者は、運転の前後に運転者の状態を目視等で酒気帯びの有無を確認しなければなりません。 また、確認した内容を記録して、1年間保存することも必要です。 次に2022年10月1日からは、事業者が選任した安全運転管理者は、運転の前後に、運転者の状態を目視等で確認するとともに、アルコール検知器で酒気帯びの有無を確認しなければなりません。 そして、確認した内容を記録して、1年間保存するとともに、アルコール検知器を常時使える状態にしなければなりません。  

※警察庁は、検知器の供給が追い付かないことから、2022年10月1日に予定していた検知器でのアルコールチェックの義務化を延期する方針としました。現在は、この内容での内閣府令案についてパブリックコメントを実施している状況です(2022年8月5日時点)。

安全運転管理者の業務の拡充|警察庁Webサイト (npa.go.jp)

 

Q2白ナンバー車があれば、必ずアルコールチェックを行わなければならないのでしょうか?

A2 白ナンバー車を使用しているすべての事業者が、アルコール検知器等で運転者の酒気帯びの有無を確認しなければならないわけではありません。 法律は、安全運転管理者を選任してアルコールチェックなどをしなければならない事業者について、乗車定員が11人以上の自動車を1台またはその他の自動車を5台以上している事業者に限定しています。 また、この台数は、事業者の本拠(事業所)ごとに計算するとされています。 そのため、この台数未満の自動車しか使用していない事業所では、法律上は、安全運転管理者を選任する必要はなく、アルコールチェックをする必要もありません。  

 

Q3その他に注意することがあれば教えてください。

A3 上記の通り、アルコールチェックなどが義務付けられる事業者は、2022年10月1日以降、アルコール検知器を常時保管して、運転の前後に運転者のアルコールチェックをしなければなりません。 この法改正を契機として、アルコール検知器が不足し始めているとの報道がなされています。 現時点で、アルコール検知器の常時保管や運転者のアルコールチェックを怠ったことに対する罰則はありません。 しかし、法律に違反することであるには違いなく、その結果飲酒運転等が行われてしまえば、事業者もそれによる刑事責任や民事責任を負うだけでなく、社会的な非難を受けることになります。 そのため、業務に必要なだけのアルコール検知器を確保して、保管することが重要です。    

 

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非上場・中小企業向けの株主総会とは?~Q&A形式で詳しく解説~ 

~はじめに~

上場企業の株主総会対策については、セミナーや文献などが様々あります。他方で、数としては日本で99%以上を占めるはずの非上場企業を対象としたものはあまり多くありません。
 そこで、これまであまり取り上げられてこなかった非上場企業の株主総会対策について、令和2年7月16日に「非上場企業の株主総会のチェックポイント」と題するセミナーを弁護士吉田良夫が行い、好評を博しました。本連載では、そのセミナーでの内容を元にQ&A形式で、実務のコツや、法令違反してしまいがちなポイントをご紹介いたします。

 今回の内容は形式的・教科書的な制度説明だけではなく、実際に弁護士吉田良夫が非上場企業から質問を受けて頭を悩ませた事例、それから文献の中で、非上場企業で起こる問題で解決策が見当たらないものついて、どういう状況で問題が起きるか、どのような考え方、やり方があるか、回避するためにはどうすればよいかをご紹介できればと思います。

 非上場会社の株主総会は、株主総会に対して非常にコストをかける上場企業と異なり、弁護士に対するニーズが少ないため、マニュアルがあまりありません。
 そのためにますます非上場企業側は、あまり資料がない状態のまま手探りで、過去の株主総会に使ってきた会社の古い事例を前提に総会対応しているところが多いようです。
 しかし時代は変わります。
 近年、法令順守の要求が強く、そしてこれから経済環境が厳しくなれば、お金の扱いについての目線が厳しくなります。株主総会を通じて、企業のお金が移動する機会は多くありますので、その観点から経済が豊かな時よりも、経済が厳しい時の方が、株主総会における法令遵守が経営側に求められます。

 本連載は国内の非上場企業向けに情報をまとめたものです。会社法の制度は複雑で、取締役会の設置の有無、監査役会の有無、株の譲渡制限の有無など様々な要素によって、Q&Aの結論が変わってくることもあります。本稿では、取締役会があり、監査役会はなく監査役がいる、株に譲渡制限がついている会社を想定して記載しておりますが、具体的な事例に適用する場合には専門家のチェックを経るなど、取り扱いにはご注意ください。法律の枠組みを伝えることを優先し、些末な例外事象の説明は除外しているところもあります。また、本連載はセミナー公演時において適用される法令を前提としており、その後の法改正は反映しておりません。本連載により生じた一切の損害については責任を負いかねますのでご了承下さい。

【目次】「非上場・中小企業向け株主総会Q&A」ご提供について ※ご参照ください。

 

Q1 どのような事項について株主総会決議が必要ですか。

 取締役会設置会社では例えば以下のような事項については、株主総会決議が必要となります。

・定款変更、合併、株式交換移転、会社分割、資本減少、解散等(会社の基礎的事項の変動)
・取締役の選任解任、監査役の選任解任など(役員の選任解任)
・計算書類の承認(上場会社では取締役会決議で承認され株主総会では報告事項)
・剰余金処分、第三者に対する新株の有利発行、自己株式取得(株主の重要な利害に関する事項)
・取締役の報酬、役員退職慰労金(報酬等)

1 総論

 株主総会は原則的には一切の事項について決議をすることができる機関ですが(会社法295条1項)、取締役会を設置している場合は専門機関である取締役会に多くの決定事項が委ねられ、①会社法が規定する事項と②定款で定めた事項に限り、株主総会は決議できます(295条2項)。経営はプロである取締役たちに任せ、株主は重要なこと等必要があるときのみ判断をするべきという発想です。
 そのような前提に立ち、会社法が株主総会の決議を必要とするとした事項については、定款で権限を委譲しても無効となります(同3項)。

2 計算書類の承認について

(1) 上場企業では、監査法人が監査証明を出すので、計算書類は取締役会で決議する だけで良く、株主総会では決議はせずに報告だけ、ということになります(会社法439条)。
(2) しかし、非上場企業では株主総会で決議しないと、計算書類は確定しません。非上場企業において株主総会が適法に運営・決議ができないと、計算書類が確定されないので、その結果、納税金額が決まらないことになってしまいます。余談ですが、ある会社では50:50の2人の株主が対立し計算書類の確定ができないことから納税を仮の金額(確定前の金額)で行わなければならない事態に陥りました。

3 剰余金処分について

 利益配当、剰余金の処分では、平成17年に商法が会社法に変わった際に、重要な要件が追加されました。剰余金の配当の金額のみならず、剰余金の配当が「効力を生ずる日」も株主総会にて決議する必要があるという点です(454条1項3号)。
 ところが伝統的な中小企業で問題のない会社は、昔ながらの書式を使って、この効力発生要件の、剰余金の配当が効力を生ずる日を決議しないまま、ずっとお金を払っていることがあるので、再度確認されることをお勧めします。

4 その他

 そして、第三者に対する新株の有利発行、自己株式取得、取締役の報酬(報酬は総額の意味)、役員退職慰労金があります。
 会社の社長が退任され、これまでの功労に報いるため役員退職慰労金を決議し、お金を払うのは当然のことです。しかし、株主総会決議なしにお金を払ってしまった、総会決議に入れ忘れて誰も気が付かなった、という問題も非上場企業では、起こり得ます。

Q2 会社法規定事項・定款事項ではないが株主総会決議をする場合があるが、なぜか?

A 「勧告的決議」です。

取締役会のある会社の株主総会で決議できる事項は以下の2つです(会社法第295条2項)。

・会社法に規定する事項
・定款で定めた事項

しかし、これ以外の事項も株主総会で決議が行われることがあります。

 例えば、近年では敵対的企業買収に対抗する防衛策の導入や発動に際して、定款変更による総会権限の拡大をしないまま株主総会の決議を経ることがあります(勧告的決議)。
 この場合、株主総会決議としての法的効力は認められないとしても、株主による意見の表明という意味はあると考えられます。

 非上場企業の場合には、株主全員が決議、賛成をすれば、この勧告的決議には法律上効力はなくとも、個別に株主が同意書を出したのと類似の効力が生じると考えられます。
 よって困った時には、この株主総会で勧告的決議に入り、なるべく多くの株主が賛成した、というファクトがあれば、後日裁判が起こされたり、後日何らかの行政に説明する時に一つの言い訳にはなります。
 もしくは、会社の分割されたオーナーである株主の多くの意思は賛成していると、もしくは多くの意思は許したという説明に使えます。
 よって無いよりはいい、という法律的にはその程度ですが、現実的には紛争を活発化させない機能はあるとは考えます。
つまり絶対的効力はないが、困ったときにはそれを検討することが、実務ではアドバイスすることがあります。

Q3 定時株主総会を上場企業は決算日から3ヶ月以内に開催し、非上場企業は決算日から2ヶ月以内に開催しているのはなぜですか?

A 上場企業が3ヶ月以内なのは基準日制度のため、非上場企業が2ヶ月以内なのは納税のためと考えられます。

定時株主総会は上場企業では決算日から3か月以内に開催し、非上場企業は決算日から2か月以内に開催しています。それはなぜでしょうか?
上場企業は基準日制度を採用しており、決算日を基準日にしています。基準日制度とは、その基準となる日の株主名簿上の株主を、後日権利行使できる者と定めることができる制度です(会社法124条1項)。上場会社では日々株主が入れ替わるため、この制度がないと株主総会の際に混乱をきたしてしまうからです。そして、基準日からの権利行使は3か月以内に行わなければならないこととされています(会社法124条2項)。
他方で非上場企業では、そもそも基準日制度を利用しないところがほとんどであり、株主総会で計算書類を承認、確定します。そして、その確定後、法人税を支払います。
法人税・消費税は決算日から原則として2か月以内に納付することとされており、決算を確定させて納税をするために2か月以内に定時株主総会を開催することが重要です。
なお、上場企業では、計算書類は会計監査人(監査法人)の無限定適正意見(すべての重要な点において適正に表示されているという意見)を付した会計監査報告を頂いて、それにより、株主総会ではなく取締役会で計算書類を確定させます。そのため、3月末決算で、定時株主総会を6月末に開催することとしていても、既に取締役会で計算書類を確定しているので、それに基づいて納税ができます。

【コラム】-非上場企業で、決算を確定させずに納税するケース-

上記のように、非上場企業は、決算から2ヶ月以内に株主総会で計算書類を確定させ、納税をするのが一番です。
しかし、50%ずつの株を保有する株主が対立し、他方の協力が得られず決算を確定させることができないような事例が、小規模な非上場企業では起こり得ます。
この場合は、将来的に決算が株主総会で確定されることを願いながら、未確定の決算の数字を前提として納税をすることになります。

Q4 定時株主総会で計算書類の承認を行う予定だったが、問題が起こり定時株主総会を開催できなった場合に、臨時株主総会で代替することはできますか

A できます。

会社法ができる前の旧商法の時代には、計算書類の承認・剰余金の配当の決定を臨時株主総会の議題とすることはできませんでした(旧商法283条1項参照)。しかし、会社法が平成17年にでき、臨時株主総会においても剰余金の配当と、その際の臨時計算書類の承認もできるようになりました(会社法441条4項)。

このようなことが起こる例として、例えば議長である社長が体調不良を起こし、社長以外の方が代役として開催するのも急には難しい、というような場合があります。
また、株主間紛争が起きて、株主が真二つに割れてしまい、主流派、反主流派、どちらも議決権で過半数が取れず、その結果、株主総会で計算書類を確定できない場合もあります。

もし、緊急事態的に臨時の株主総会で計算書類を確定しなければいけないという時には、上記のような臨時株主総会という方法を取ることができます。一番良くないのは、定時株主総会が開催できない、もしくは定時株主総会で計算書類を確定する決議ができないという事態が起こった際に、「では来年の株主総会でやろう」と考えることです。これではさすがに、確定するのが遅すぎることになります。

上記のように、臨時株主総会によって配当をすることがいつでも(配当原資がある限り)可能ですので、会社によっては臨時株主総会を開催して年に何度も配当を行うことも可能です。
なお、上場企業では剰余金の配当については一定の厳格な条件を満たす場合には定款で取締役会に配当を決定する権限を与えることができます(会社法459条1項4号)。日本の企業でも、この制度を使って米国企業のように四半期配当(年に4回配当)を行う上場会社があります。

Q5 臨時株主総会ではどのような決議をされることが多いでしょうか

 取締役の選任・解任、第三者割当増資などを行うことが多いです。

例えばですが、3人の取締役がいる会社で、1人の取締役が死亡又は辞任で2人になってしまい、補欠取締役も定めていなかったため、取締役を1名追加する場合があります。これが一番多いでしょうか。
新事業をスタートさせる際に、定款にその事業が会社の目的として記載されていないことが発覚し、定款変更を決議する場合もあります。定款の目的の記載は形骸化されているとも言われますが、本来、会社の権利能力は定款に定められた目的の範囲内に限定されます。
そして非公開会社の第三者割当増資、また特に有利な(特に安い金額での)第三者割当増資です。それから取締役解任。解任の時には臨時株主総会を開いて解任するというのがとても多いパターンです。

Q6 定款の目的の記載について注意することは何ですか

 「前各号に付帯関連する一切の事業」でカバーしきれていない事業を行っていないか、という点です。

会社を設立するときに作成する定款で目的を思いつく限り20個も並べ、更に「全各号に付帯関連する一切の事業」と最後に付けておけば、これで定款の目的外の事業をしてしまうことはないだろうと安心するのが普通です。しかし、「付帯関連」する事業という記載ですので、全く別の畑の事業に手を出す場合は、定款の目的から外れることになります。
時代が変化し、当初は考えもつかなかった事業を行うことはよくあります。新規事業を考えるときに、マーケティングなどは考えても、定款変更までは中々注意が向かないことが多いと思います。

また、100%出資の子会社が行う事業は、親会社の事業と考えるのが一般的な考え方と言われています。多くの100%子会社がある会社で、子会社がそれぞれ新規事業を始めれば、すぐに「付帯関連」しない事業も生じることでしょう。また、知り合いから事業を買わないかとM&Aの話が来たため、業種の違う会社を購入する場合にも注意が必要です。

これを回避するため、定款の目的については、「商業、商取引、法律に抵触しないあらゆる事業」と記載してしまうのも一つの手です(参照:「会社法の実務 中村直人倉橋雄作著 商事法務 41頁」)。

【コラム】

定款の目的の範囲外の取引を会社が行ったことにより商取引が無効となる可能性は現実的にはほぼ皆無と思われます。そのため、定款の目的にはそこまでこだわらなくてもよいという考えもあります。
しかし、株主に経営陣と対立する株主がいる場合には、現経営陣への攻撃理由に使われることがあります。定款の目的外の行為を行っている=法律に違反していることを行っている、既にこの事業に使った金銭については合法でない支出であり、経営陣は責任を取れという言い方をされた事案が過去にありました。揚げ足を取られないようにしっかりと守備固めをしておくことが肝要です。

Q7 株主総会招集通知の発送について特に注意すべき点は何ですか

 株主名簿の記載に忠実に発送することと、発送日と総会当日の間に1週間必要(発送日と当日を含めると9日間必要)であること等です。

株主総会招集通知の発送については、全て株主名簿の記載に基づく必要があります。当然のようにも思えますが、直前に会社と親しい関係にあった株主が亡くなったことを会社の役員が知っていた場合はどうでしょうか。お亡くなりになった方の名を宛名に書いて送るのはご遺族に対して失礼に当たると考える方もいるかも知れません。
しかし、死亡された株主に対しても、株主名簿の記載とおりに発送する、これが法律です。
その上で、非上場企業の皆さまの場合には、「法律の定めで株主名簿記載のとおり、亡くなられた方のお名前でお送りしますが、ご容赦ください」とご遺族に連絡を入れておくべきでしょう。とにかく株主名簿に基づいて発送したという事実を会社は作り、手元に控えを残しておきます。その上で、次に相続人が議決権行使する時は、その時にまた考えれば良いです。

非公開会社では原則として、株主総会の日の一週間前までに、株主に対してその通知を発しなければならないと規定されています(会社法299条1項かっこ書)。株主総会が翌週火曜に予定されているとして、発送は火曜で良いでしょうか。この点については複雑な議論があるのですが、実務的には総会の日と発送の日の間に7日必要(中7日)となります。

所在不明株主には、招集通知を送る必要はありません。これは5年以上、株主総会招集通知を発送したけれど、相手がいなくて戻ってきたという場合で、この場合は所在不明株主になります。この場合、戻ってきた招集通知は捨ててしまうのではなく、証拠として会社で保管することが大切です。

また、非上場企業の場合、株主間での話し合いがしやすく、議決権のない株式を発行し、優先配当する株式(いわゆる種類株)を作る場合があります。議決権を行使できない、いわゆる議決権のない株主に対しては株主総会の招集通知は送る必要はありません。

Q8 株主総会の開催場所について注意点はありますか

 定款に記載(本店所在地等)があればその記載とおりに開催し、記載がなければ適切な場所で開催する必要があります。

株主総会開催場所についての注意点は、定款に記載(本店所在地で株主総会を開催するなどの記載)があれば、その記載どおりに開催することになります。
しかし、定款に開催場所について何も記載がなければ、開催場所に制約はありません。極端な話、外国で開催することも可能ということになります。株主が分散されている場合などは、臨機応変に開催できるという意味で、開催場所の文言を削除することが、便利ではあります。

他方で、注意点があります。過去に開催した株主総会開催場所と著しく離れた場所で開催する時は、その離れた場所で総会をすると決定した理由、それを招集した株主総会にて原則として説明する必要があります(会社法施行規則63条2号)。また、株主が出席できない場所で株主総会を開催すると、出席できない株主から、これは自分が出席できないことを狙った招集だということで、後で株主総会の決議取消訴訟という裁判をかけられる可能性はあります。そのため、普通の会社では外国で開催することは現実的には採り得る選択肢ではありません。

そういう面倒はありますが、しかしながら総会の場所を臨機応変に開催できるという便利さ、これはこれで便利なもので、頭の中に入れておくと良いでしょう。

Q9 株主総会の開催日時を決める際の注意点はありますか

 前期の株主総会の日と著しく離れた日を定時株主総会日とするときは理由を書く必要があります

株主総会開催日時を前期の株主総会の応答日と著しく離れた日とする場合には、その日時にした決定理由を定める必要があります(会社法施行規則63条1号)。
前年と1~2週間程度ずれる分には問題はないです。ただ、何らかの理由で非常に大きくずらした場合や、特定の方が来られないタイミングを狙って開催した場合は決議取消訴訟の対象となる可能性があります。

【コラム】 -招集通知の言葉について-

招集通知の目的事項とは、報告事項と決議事項
報告事項は、会社の業績についての事業報告のことです。
業界はこのような感じで、我が社はこのような感じでした、というものです。
そして決議事項については、よく「議題」と「議案」という言葉が出てきます。
議題とは、「計算書類承認の件」、「取締役〇名選任の件」など、決議事項の具体的内容を含まない題目のことで、具体的内容ないものです。テーマが分かるもの、これが議題です。
議案とは、決議のドラフトのことです。議題の具体的内容であり、計算書類の具体的「内容」、選任する候補者の具体的「内容」(誰々という話ですね)などのことです。

株主総会参考書類とは

書面投票において、賛否判断をする際の参考情報が記載された書面です。
ここには議案、決議のドラフトが記載されます。

議決権行使書面(書面投票)とは

株主自身が総会当日に会場へ行かず、出席しないで議決権を書面投票で行使できる、賛否の意思を表記する書面のこと。
上場企業の議決権行使はほとんどがこの議決権行使書面、書面投票です。

電子投票( 電磁的方法による議決権行使)とは

会社の設置するウェブサイトにアクセスして議案の賛否を入力すること等により電子投票を行う方法のことです。新型コロナウィルス対策の関係で、新聞などに多く出た言葉です。
ただ、非上場企業の場合は、この電子投票まで対応されている企業は非常に少なく、また、その必要もないと思っております。それよりは、コストをかけずに、しっかり株主を把握され、書面投票で処理する方が良いと思います。

代理人による議決権行使

議決権の代理行使とは、委任状により他者を自分の代理人として出席させ、会場で代理人により議決権行使する方法です。これは単に議決権行使だけではなく、意見を言ったり、質問したり、そういったことも代理人は行えるという前提です。
定款に、「代理人は株主に限り、代理人の人数は1名」と明記されていること多いのですが、まず明記されているかどうか、確認されると良いと思います。

Q10 株主から弁護士を代理人として株主総会に出席させたいと言われた場合はどのように対処すればよいですか?

 事情によりますが、認めた方が良い場合があります。

この点は、実務として多い問題です。株主が自らの代わりに弁護士を代理人として株主総会に出席させ、質問させたり、議案について修正動議を出させたり、手続的動議を出させることがあります。
議案の修正動議とは、配当一株あたりの金額を増額してくれといった内容や、取締役の人数が多すぎるから一人減らしてくれといった内容が典型です。なお、取締役の数を増やすよう総会で要求する場合には、これは議案の修正動議には入りません。例えば5人を6人にするのは、それまでの議案とは別個の議案を出すことと同じと考えられています。
手続動議とは、議長交代が典型的なものであり、株主総会のやり方に異議を出すものです。

これらについて、株主の代理人が行えるかどうか。例えば、定款には、「代理人は株主に限り、代理人の人数は1名までとする」と記載されているが、株主ではない弁護士を代理人として選任できるかどうか。
裁判例の結論は分かれています。特に上場会社では認められやすい傾向にあるようです。
よって実務としては、今の状況で株主が弁護士を代理人にして、その総会に参加させたいといった場合に、会社としては認める、認めない、どちらを採用してはいけないとまでは断言できない状況にあります。ただ、弁護士による代理を容認した場合は、その会社において先例になる可能性があるので、将来また同じような話が出たら、同じように受け入れざるを得ないことになる可能性が高いと言えます。
また、非上場企業では計算書類が決議事項ですから、弁護士と会計士を代理人にして、この計算書類について確認したい、計算書類が間違いじゃないか、お金のごまかしがあるのではないか、といった内容を総会のやり取りを通じて、証拠として取ろうとするケースも、紛争事例ではあります。
そのような、弁護士と会計士、両方を代理人として出席させたいといった要求が株主から来た場合に、認めるか認めないか等があります。
このような場合、対立が先鋭化して喧嘩モードになってしまうところであり、「代理を認めなければ株主代表訴訟を提起する」といった要求が来ることが多いのですが、会社は冷静にご対応いただいて、株主となるべく合理的な情報交換をするとともに、紛争を作らないようにする、紛争を拡大させないようにする、ということが大事だと思います。

Q11 委任状による議決権の行使がされる場合の注意点は何ですか?

 定款の定め、委任状の内容(修正動議を出すこと、修正動議に対する質問と投票をすることが含まれているか)、代理人資格の確認はどうするか等に注意する必要があります。

1 委任ができるかという点について

平時では委任状により議長に一任したり、他の株主に委任をしたりすることはよくあります。
紛争時の委任状では代理人が会社側の人物ではなく、先ほどのQのとおり、弁護士や会計士を代理人としたい旨の要求が出される場合があります。
その場合には、繰り返しになりますが、定款を確認してください。委任を受ける者、これを株主1名と明記してあるかどうか。
また、反対株主の委任状を確認し、委任事項に、修正動議を出す旨、修正動議に対する質問をする旨、投票する旨などが記載されているかどうか、確認してください。
これらを満たす場合は、反対株主の代理人は株主総会において問題なく全てを行うことができることになります。また、弁護士や会計士などが株主ではない場合(が多いのですが)には、先ほどのQのとおり、代理人としての議決権行使を認めてよいかを検討することになります。

2 代理人資格の確認方法について

 また代理人資格として、弁護士と称する者が当日突然来て、その弁護士であるという証拠をどうやって確認するか、という点も問題となります。弁護士の場合には、弁護士の身分証明書があり、その提示を求めたり記章(いわゆる弁護士バッジ)と登録番号を確認するなどの方法で相当程度本人確認を確実にすることができます。代理人が委任状に記載された本人であるかの確認方法をどうするかも、問題が起こりそうな株主総会の前には検討しておく必要があります。

Q12 非上場企業の招集通知作成の際に気をつけることはありますか。

A 必要記載事項の抜け漏れがないか、添付する書類に漏れはないかを確認してください。

1) 発信日・開催日時・場所・議題・提出議案(議案の概要の記載)に誤記・漏れはないか。

2) 事業報告に昨年記載部分や誤記等のケアレスミスはないか(出席株主から誤記を指摘されることあり)

一般に招集通知や事業報告は、過年度のデータを修正して作成することが多いと思われますが、修正していない部分があるまま印刷・送付してしまうことがあります。日時や金額などの数字の部分を、後で確定してから修正しようと担当者が考え、修正を忘れてしまう例が多いです。

3) 計算書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)の作成送付はしているか。

計算書類とは、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表の4つです(会社法435条2項、会社計算規則59条1項)。
株主資本等変動計算書とは、貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本、その株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成される決算書です。
これは計算書類の一部として、すべての会社に作成する義務があります。非上場企    業で全てを会計士や経理担当に任せていて社長が株主資本計算書、株主資本等変動計算書を作っているか確認していない場合、確認することをおすすめします。

個別注記表とは、重要な会計方針に関する注記、貸借対照表に関する注記、損益計算書に関する注記など、各計算書類に記載されていた注記を1つの書面として一覧表示するもので、会社法により計算書類の一部となりました。
個別注記表については、「注記表」という1つの書面として作成する必要はなく、貸借対照表等の各計算書類の注記事項として記載してもよいです。

株主資本等変動計算書・個別注記表の作成を怠っている会社は散見されますので、注意が必要です。

4)附属明細書は、作成義務はあるが、発送する必要はない

附属明細書は、有形固定資産及び無形固定資産の明細、引当金の明細、販売費及び一般管理費の明細についての事項のほか、株式会社の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表の内容を補足する重要な事項を表示する書類(会社計算規則第117条)です。
計算書類の附属明細書は、会社法第435条第2項により作成義務がありますが、株主総会招集通知に添付して発送する義務はありません(会社法第437条参照)。

※注意※
・紛争時に、反対株主から、総会の場で附属明細書の交付を要求されることがある。
・作成していない場合は作成する必要がある。
要求された際に、もし作っていなかった場合は、正直にその旨を伝え、早急に作成すれば問題はありません。

5)監査報告書

2020年は新型コロナウィルスの関係で、上場企業では監査役は招集通知の中に監査報告書を同封し、そこで監査報告書で法令違反はなく、特に指摘する事項はないと書く例が多くありました。しかし例年であれば、実際の総会で、監査役は株主の前に出て、監査報告書のとおり読み上げて、以上ですと帰っていきます。今年6月総会では、ほとんどの会社は、監査役の監査報告書を総会では省略していました。
どういうことかというと、会社法第384条は、監査役は法令もしくは定款に違反し、著しく不当であると認める事項がある場合には、(問題がある時は、)その調査の結果を株主総会で報告しなければならない、と定められています。つまり、問題がある時は、その結果を報告し、問題がなければ報告しなくて良いのです。
では今まで上場企業が総会で監査役が問題はないと報告していたのは何か、それは言わば、法律は求めていないけれども、監査役が職務を誠実にしていたことを表現するセレモニーとして行っていたもの、慣行として行っていたものと解されます。
今回の新型コロナウィルスの状況では、接触を短くする、時間を短くする観点から、監査役は報告を省略する、というのが実務として今年は多く使われました。
頭の中に入れておいていただいて、来年ももしこの新型コロナウィルスの状況が続き、総会を短くしたいという時や、監査役がその日程に出席することが困難であるという時は、監査役の監査報告は、問題がないのであれば、当日報告は省略して結構です。
ちなみに取締役、監査役、全員株主総会に出席するのが、これまででしたが、今年の新型コロナウィルスの関係で、上場企業では出席取締役数、出席監査役数をわざと縮小するというケースが多く使われました。理論的に言うと、出席できるのに出席しないというのは、そこで株主総会で質問が来た時に回答するということもしない訳ですから、厳密に言えば善管注意義務違反の問題がありうるのですが、今回のような特殊事情があれば、問題なしと解されるでしょう。

6)会社側を受任者とする委任状(足を運ばない株主の議決権行使のため)

株主総会を成立させるためには、株主総会に出席した株主の議決権の合計が過半数に達している必要があり(会社法309条1項:定足数。定款で引き下げ可。)足を運ばない株主の議決権行使のため、議長に一任するという形での委任状を出すよう依頼するのが一般的です。

7)書面投票をしない場合は、参考書類・議決権行使書面はない。

会社法301条1項は書面投票をすることができることを定めた場合は、招集通知に際して、株主総会参考書類と議決権行使書面を交付しなければならないと定めています。そのため、反対解釈として、書面投票をすることができることを定めなければ、これらの書類の交付義務はないことになります。委任状による投票(他人に委ねる投票)と、書面投票(株主総会に出席しないが自らが決定して行う投票)は一見似ているようで異なりますので区別して理解することが必要です。

Q13 議案の概要の記載について注意する点はありますか

A 議案の概要の記載が特に必要なものは、取締役会で決定をして具体的に記載する必要があります

書面投票、電子投票を採用しない場合は株主に株主総会参考書類を交付する必要はありません(会社法第301条参照)。
しかし、その場合でも、役員選任、役員の報酬、定款変更、M&Aなどを決議する場合は、議題だけでなく議案の概要を決定し(会社法施行規則63条7号)、それを書面で通知(郵送が一般)する必要があります(会社法第298条1項5号、会社法第299条4項)。

<議案の概要の記載が必要な事項(例)>
 以下の事項などを株主総会の目的とする場合は、議案の概要(議案が確定していない場合は、その旨)を記載する必要があります(会社法施行規則63条7号)。

・役員等の選任
・役員等の報酬等
・全部取得条項付種類株式の取得
・株式の併合
・特に有利な金額で募集株式を引き受ける者の募集
・特に有利な条件有利な金額での募集新株予約権を引き受ける者の募集
・事業譲渡等
・定款変更
・合併
・吸収分割
・新設分割
・株式交換
・株式移転

Q14 附属明細書について総会で質問が来たら、議長や他の役員は回答義務がありますか

 計算書類の附属明細書の記載事項を敷衍する程度については説明義務がある、と考えられます。

計算書類などの株主総会での扱いについて整理すると以下のとおりです。

1 株式会社は、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの付属明細書を作成しなければなりません(会社法435条2項)。

2 また、取締役会設置会社では、担当取締役が計算書類及び事業報告並びに付属明細書を作成した後、監査役の監査を受け、その後いわゆる決算承認取締役会の承認を受ける流れになります(会社法436条1項)。

3 その上で、取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、上記計算書類及び事業報告を株主へ提供(送付)しなければならず(会社法437条)、計算書類は会社法438条2項により株主総会の承認を受けます(普通決議)。

株主総会では議案の賛否について、株主が判断するためにされた質問については、回答義務があると考えられ、附属明細書は、計算書類・事業報告の内容を補足する重要な事項を表示するものですので(会社計算規則117条、会社法施行規則128条)、その記載事項を敷衍する程度については説明義務があると考えられます。些末な点について嫌がらせ目的のように質問がされた場合には、説明できなくても問題が生じる可能性は低いでしょう。

Q15 非上場会社の剰余金処分(昔の利益配当)議案の注意点は何ですか

A 「剰余金の配当が効力を生じる日」を記載していない会社があるため、注意してください。

大まかに言えば、剰余金の配当をする場合は、純資産額から資本金や準備金を除いた金額(分配可能額)でなければできない(会社法第461条1項8号)などの制限がありますが、ギリギリまで配当を出す会社は多くなく、これが問題になることは粉飾決算があった場合などを除き、あまりありません。

よく問題になるのは、「剰余金の配当がその効力を生じる日」(会社法454条1項3号)を議案に記載し忘れている場合です。
このようなミスがあるのには理由があります。会社法になる前の商法の時代には、この要件が決議要件ではなく、そのため会社の使用している雛形にも記載がされていませんでした。平成17年に会社法ができ、「剰余金の配当が効力を生じる日」も決めなければならないことになりましたが、以前からのひな形を使っている会社は、令和になった現在も、この要件を議案に記載していないことがあります。
この要件がないと、厳密には配当の効力を生じる日がないことになり、すでに配当として渡した金銭が有効なのかという難しい問題が生じてしまいます。
慣例的に株主総会を行っている企業の方は一度、議案が以下のサンプルのようになっているか、確認をしてみてください

<サンプル>

1 配当財産の種類
  金銭
2 株主に対する配当財産の割当てに関する事項及びその総額
  当社普通株式1株につき    金○円
  配当総額       ○○○○○○円
3 剰余金の配当が効力を生じる日
  2020年○月○日

Q16 非上場企業が報酬議案を決議する際に気をつけるべきポイントは何ですか

A 報酬として決議すべき事項は意外に広いので、今回の議案が役員報酬のみの決議でよいか注意してください。

1 金額が確定しているものについては、その金額を決議してください

1回報酬枠を決議していれば、それ以降は枠内であれば総会決議は不要です。取締役会が各取締役の報酬決定をするが、普通は取締役会決議で社長一任とするので、具体的金額は枠内で社長が決定することになります。
取締役の任期ごとに報酬決定をする必要があるので、再選の場合は、取締役会で社長一任決議をとる必要があります。

2 金額が確定していないものについては具体的な算定方法を決議します。

総会で算定方法を相当とする理由を説明する義務があります。

3 金銭でないものについては具体的内容を決議します。

金銭でないもの、これが一番問題になります。具体的内容を決議で、低賃料による社宅提供、取締役の親族を保険金受取人とする生命保険契約、社長専用の高価な社用車など、も実は報酬となることが多いです。その場合には、その具体的内容を株主総会にて決議する必要があります。
社宅を安価に提供した場合の市場賃料と、実際に取締役が負担する賃料の差額分、つまり、正規家賃100万のところを、5万程度を会社に払う賃料とし利用しているという場合、95万分が決議すべき具体的内容となります。
また、退職年金(企業年金)の受給権を付与、そして生命保険の保険金請求権(会社が保険金を払い、取締役本人が亡くなった際にその家族に保険金が入る)の場合には、金銭でない報酬にあたり、その内容を相当とする決議が必要となります。

Q17 取締役の報酬を減額する際に気をつけるべきポイントは何ですか

A 本人への十分な説明と、同意書の取得をするようにして下さい。

一度決まった取締役の報酬は、原則としてその者が報酬額の減額について同意しない限り、担当職務を変更しても報酬額の減額は困難です。無論、例外的な場合もあり、本人が明らかに同意をしていなくても、黙示という同意があると認定できるという見解もあります。しかし、報酬などの減額について、黙示の同意の存在は簡単に認められるべきものではないとの裁判例もあります(名古屋地裁H9.11.21判決、福岡高裁H16.12.21判決)。実務で、どうしても報酬を下げたい場合は、当該取締役によく説明をした上で、同意書を交わすなど注意深く行う必要があるでしょう(なお、同意書があったとしても裁判所が無効と判断する可能性は皆無ではありません)。
報酬の問題は、取締役のパフォーマンスに問題があることから解任したような場合にもよく問題となります。会社と取締役との関係が委任契約であることから、会社はいつでも解任をすることができますが(会社法339条1項)、残りの任期分の報酬総額については正当な事由が無い限り支払うことになる場合がとても多く(会社法339条2項)、また正当な事由は一般の人が思うよりも狭く解されているように思われます。

Q18 取締役が退任する際に、株主総会決議を経ないで、役員退職慰労金を支給してしまった場合はどうしたらよいですか?

 臨時株主総会を開き、追認決議をすることが望ましいです。

社長や取締役が退任する際、株主総会決議を経ないで役員退職慰労金を支給してしまった場合、臨時株主総会を開き、決議を追加し、その決議をもとにお金を払うという風にしてください。つまり先にお金を渡していたとしても、それを仮払いにして、仮払いから本払いという風にしてください。期をまたいでしまうと帳簿処理が複雑になりますが、税理士とも相談しつつ、気が付いた時点で株主総会決議をとることが望ましいです。

Q19 役員退職慰労金の議案の注意点を教えて下さい

A 支給基準についての説明を求められた場合に備え、説明をする準備をしておいてください。

退職慰労金も報酬の一類型として、株主総会で決議されます。そのため、本来であれば株主はいくら退職金が出るかを知り、その可否について議決をするべきです。
ところが、日本では慣行から具体的なお金の金額を出すのは生々しいということで、「当社の支給基準に従い、相当の範囲内で支給することとし、金額、時期、方法等は取締役会にご一任いただきたく存じます」などと説明され、議決されることが多いです。
これが争われた裁判例では、支給基準(会社業績、退任取締役の地位・勤続年数・功績等から決まる)を株主が推知しうる状況において、基準に従い決定することを委任する趣旨の決議をするのであれば有効であるとしており、推知しうる状況とは、例えば本店に行けば規程が閲覧できるような状況のことをいいます。閲覧できる場合であっても、株主総会の議場において株主から質問があった際に、「閲覧をしてください」というだけでは適切な説明がなされたとは言えず、違法となる可能性が高いでしょう(東京地裁昭和63年1月28日判決参照)。

・[議案のサンプル]
議題 取締役1名に対し退職慰労金贈呈の件
議案 取締役○○は、本総会終結の時をもって任期満了により退任されますので、在任中の功労に報いるため、当社役員退職慰労金規程に基づき、相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈することといたしたく存じます。
なお、その具体的額、贈呈の時期、方法等は、取締役会にご一任願いたいと存じます。

Q20 株主総会で支給基準に基づく決定を委任された取締役会が基準に反して不支給または減額した場合はどうなるか?

 基準に反する不支給や減額については、不法行為が成立し損害賠償請求がされる可能性があります。

不支給又は減額に関する裁判例としては以下のようなものがあります。

①東京地判H6.12.20・・・不支給の事例
株主総会決議で、代表取締役を退任した者に対し退任慰労金を支給することとし、その具体的金額、時期、方法等の決定を取締役会に一任したのに、取締役会が具体的な支給に関する取締役会決議をしなかったので、支給をうけるはずの退任取締役が会社と社長に対し不法行為による損害賠償を求め、認められた事例です。

②東京高判H.9.12.4・・・取引損害の責任を取らされ減額された事例
退任取締役の退職慰労金について、株主総会で、会社における一定の基準に従い相当額の範囲内で取締役会に一任する旨決議し、これを受けた取締役会が、退任取締役が担当した取引により会社が被った損失を減額分として金額決定したところ、退任取締役が減額分を役員退職慰労金として請求し、認められた事例です。
※この判決だけが不法行為ではなく役員退職慰労金として請求を認めています。

③福岡地判H10.5.18・・・支払いを遅延された事例
株主総会において社内規定に基づいて退職慰労金を支払うこととし、金額等を取締役会に一任する旨決議し、これをうけた取締役会が、未回収の売掛金があることを理由に右支払は当該退職役員が回収してから支払う旨の決議をしたところ、退任取締役が、会社と社長に対し不法行為による損害賠償を請求し、認められた事例です。

④東京高判H12.6.21・・・退職慰労金が支給されなかった事例
株主総会において、退任取締役に対し退職慰労金を支給することを決定し、その金額などの決定を会社の取締役会に一任した場合であっても、取締役会で退職慰労金を支給する旨の決定がない限り、退職慰労金を請求できないと判断した事例です。
但し、判決文では「不法行為……損害賠償を求めることができるかどうかはともかく」という文言もあり、不法行為として請求がなされていたら損害賠償が認められた可能性もあると思われます。

⑤名古屋地判H14.1.17・・・支給が恣意的に低額であった事例
複雑な事例ですが、不法行為としての損害賠償が争点となった事例です。役員退職慰労金について功労加算をしなかったことは不法行為にならないが、「非常勤基礎給は……減額前の1375万円として算出すべき……30万円として算出したB社長の本件決定は……報復意図が容易に推認され、不法行為を構成する」という判断をした事例です。

②の判決例だけが不法行為ではなく役員退職慰労金として請求を認めています。
②は、支給基準を前提にして具体的支給額を取締役会で決議したが、その支給基準の判断に誤りがあった(支給基準には減額の場合も定められているが、本件では減額が認められない事案だった)ため、取締役会での支給基準があることを前提に減額されない役員退職慰労金の請求を認めたという意味だと理解できます。
他方で、②以外の判決例は、そもそも基準に沿っていない事案(不支給(①④)、基準が認めていない理由で減額した事案(③))、基準が認めている裁量権を逸脱した事案(⑤)であると理解できます。

以上の5判決例を公式化すると以下の整理ができるだろうと考えております。

株主総会で役員退職慰労金の支給を決議し(支給基準あり)、取締役会に一任した場合に、
・取締役会が決議しない、
・支給基準にない減額をする、
・事実上減額になる条件をつける(未回収を回収してから考える等)、
・支給算定基準の月額報酬を恣意的に大幅減額する、
等の事情があれば、不法行為が成立する。

 

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「非上場・中小企業向け株主総会Q&A」ご提供について

非上場企業の株主総会で発生しやすい具体的問題Q&A

~非上場企業に特化した盲点や重要問題の解決集です~

このQ&Aは、吉田総合法律事務所の全員が作成に関わりました。
このQ&Aは、私吉田良夫が、日本商工倶楽部から非上場企業に特化した株主総会の講演を依頼され、その講演内容を検討したことが、最初の作業です。

非上場企業では非常に真面目で業績良好な企業であっても、複雑な法令の遵守の中で「意図しない裂け目」を作ってしまうこともあります。
特に本Q&Aの前提となった講演内容は、私が書籍で探した問題だけでなく、20年以上の会社法業務の中で、実際に「現実問題として直面した難問」もかなり含まれております。
調べてもドンピシャリの回答文献はありません。
その中で、なんとか依頼者(会社)の期待に応えようとして考えてきた内容も含まれております。

その後、講演内容を日本商工倶楽部機関誌でダイジェスト紹介をしていただき、その講演録をお読みいただいた方から、大変良い内容で学ぶことが多々あった、という望外の喜びとなるお電話まで頂くこともできました。

そのような事情がある中で、講演内容の音声データを日本商工倶楽部からいただき、当事務所事務局が一語一語の完全反訳(文字化作業)をしました。
また、講演時間が1時間30分という事情もあり、補強必要箇所もありましたので、星野光子弁護士による文献及び判例調査による補強作業も行われました。

さらに、渡邊康寛弁護士からは、Q&Aの形式が利用性が良い、という指摘があり、その通りですから、渡邊弁護士にその整理を依頼し、Q&A原稿の素地ができました。その後、当事務所内で内容討議などもあり、掲載原稿ができあがりました。
なお、この原稿は実際は2020年中にできておりましたが、コロナウイルスによる環境変化に対応するための事務所改革などもあり、ようやく掲載することができました。

この原稿の完成経緯は以上の通りですが、今後も、適宜、追加補充などの作業をしていきたいと考えております。

当事務所は所属メンバー全員が、「世の中に、実務に、少しでも貢献し、役に立ちたい」と強く思っております。このQ&Aが非上場企業に関わる方々に、少しでも役に立ちますことを念じ、本Q&Aを当事務所ホームページに掲載いたします。

2021年4月30日

吉田総合法律事務所       
代表弁護士 吉田良夫      
当事務所弁護士、事務局を代表して

 

 

事実婚と不妊治療についてー不妊治療クリニック側の観点からー

※この記事は、2021年4月に顧問先からのご要望を受けて実施したWEBセミナーのテキストを転記したものです。

【PDF】事実婚と不妊治療について(テキスト)

1 法律上の婚姻の要件(民法)

  • 婚姻の届出
  • 婚姻意思の合致
  • 婚姻障害に該当しないこと(近親婚、重婚)

 

2 内縁(事実婚)についての一般論

(1) 内縁(事実婚)とは

婚姻の実体を有する男女間の関係であり、婚姻の届出を欠くために、法律上の婚姻が成立していないもの(窪田充見『家族法-民法を学ぶ』(第4版)有斐閣135頁)

(2) 戦前の内縁と現代の内縁(事実婚)

【戦前の内縁】

戸主の承諾が得られず婚姻できない(旧民法)

推定家督相続人同士は婚姻できない(旧民法)

跡取りを産むまで届出をしない(試婚)などの風習

庶民にとって届出婚はなじみのない制度であり、知識の欠如や無関心があった

→内縁関係に留まらざるを得ない、いわば余儀なくされた内縁

→婚姻に準じて保護(判例・学説において、いわゆる準婚理論が発展)

【現代の事実婚】

法律婚にデメリットを感じ、当事者の主体的選択として婚姻届出をしない

理由は様々

夫婦同氏、戸籍制度に不都合を感じている

法律婚による拘束を受けない自由な関係(貞操義務や同居協力扶助義務を負わず、自由に解消できる関係)を望んでいる

→後者のケースで婚姻に準じた保護をすることは当事者の意思に反すると考えられる

→準婚理論は未だ有用ではあるものの、ケースバイケースの判断となると考えられる

※準婚理論

婚姻の効果のうち、共同生活の存在を前提として定められているものは、内縁関係にも準用(類推適用)される。しかし、婚姻届が出されていることを前提として定められている効果(夫婦同氏、子の嫡出性、配偶者相続権)は内縁関係には認められない。(犬伏由子・石井美智子・常岡史子・松尾知子『親族・相続法』(第3版)弘文堂(以下「犬伏ほか『親族・相続法』」という。)119頁)

(3) 内縁の成立要件

  • 内縁準婚理論(学説)においては、①婚姻意思(夫婦共同生活を営む意思)、②夫婦共同生活の実体が内縁の成立要件とされているが、判例においては、事例により要件の緩和が見られる。
  • 最近の学説では、内縁保護の要件を一律的に設定するのではなく、当該内縁に求められている法的効果との関係で相対的に内縁保護の要否を判断する相対的効果説と呼ばれる立場が支持されつつある。これは、婚外男女関係の多様性を前提とすれば、どのような法的効果が与えられるべきかは、結合の排他性・継続性、同居・家計の共同性の有無、社会ないし周囲のサンクションの有無、婚姻障害の有無などの多様なファクターによって具体的な男女結合類型ごとに個別に判断せざるを得ないというもの。(犬伏ほか『親族・相続法』119頁)

→事例(求められる法的効果)によって、保護すべき事実婚は異なる。

(4) 特別法による内縁保護

  • 厚生年金保険の遺族年金(厚年法3条2項)、労働災害の遺族補償年金(労災法16条の2第1項)等の社会保障制度、DV防止法1条3項等では、「配偶者」に、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者も含まれる。
  • 他方、所得税法83条の配偶者控除(所得税基本通達2-4)、刑法105条等の「配偶者」は、民法上の配偶者に限る。

→法律によって「配偶者」の意味は異なる。

厚生年金保険法3条2項には「この法律において、『配偶者』、『夫』及び『妻』には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。」と規定されているが、「配偶者=婚姻関係にある当事者ならびに婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」と一般的に定義することはできない。

(5) 最近の事例

令和3年3月17日付け最高裁判所決定

同性の事実婚に不貞慰謝料が認められた事案

…約7年同居、アメリカで婚姻登録証明書を取得、日本国内で結婚式を挙げたこと等(東京高裁)

3 不妊治療と事実婚

法規制なし

最高裁判例なし

参考として…

  • 助成金制度
  • 平成25年裁判例
  • 平成26年日本産科婦人科学会会告

 

4 助成金申請の要件

厚生労働省「不妊に悩む方への特定治療支援事業(令和3年1月 1 日以降治療終了分)」

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000740833.pdf

㋐ 両人の戸籍謄本(重婚でないことの確認)

㋑ 両人の住民票(同一世帯であるかの確認。同一世帯でない場合は、㋒でその理由について記載を求めること。)

㋒ 両人の事実婚関係に関する申立書

なお、事実婚関係にある夫婦が助成を受ける場合は、治療の結果、出生した子について認知を行う意向があることを確認すること。

 

5 平成25年裁判例配偶者の承諾なく生殖医療行為を実施したクリニックの責任

東京地裁平成25年7月19日判決(平成23(ワ)18054号)

出典:ウエストロー・ジャパン、2013WLJPCA07198008

(不法行為の成否)

・       婚姻関係にある男女の一方が,配偶者の承諾なく,配偶者ではない第三者との間で子をつくる行為は,配偶者の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法律上保護に値する利益(配偶者としての権利)を侵害する不法行為に当たる。

・       生殖医療行為は,男女間において,自然な性交によらず,精子と卵子を受精させて妊娠に導くものであって,不妊症の男女の子をつくりたいという希望を実現するための重要な医療行為である。したがって,医師は,不妊症の男女から生殖医療行為を実施するよう求められてこれを実施することについて,原則として責任を問われることはない。

・       しかし,被実施者両名が婚姻関係にはなく,他に配偶者がいる場合に,その配偶者の承諾なく生殖医療行為を実施することは,被実施者との関係では正当な医療行為であるが,配偶者との関係では配偶者としての権利を侵害する行為に加担する行為といえるのであって,生殖医療行為は,配偶者に対する医師と被実施者の共同不法行為を構成し得る。

(故意・過失の有無)

・       被告が,A及びBに本件体外受精を実施するに際し,Aが原告と婚姻していることを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく,原告の有する配偶者としての権利を侵害することについて故意があったとはいえない。

・       また,前記認定事実1(4)イのとおり,平成18年2月2日に発表された日本不妊学会の本件見解において,事実婚関係にある男女に対する本人同士の生殖細胞を用いた生殖医療行為を可能とすべきとされているが,事実婚関係にある男女に対する体外受精が配偶者としての権利を侵害するおそれがあることや,それを防ぐための身分関係の調査義務等についての記載はない。

・       一方,前記認定事実1(4)アのとおり,日本産科婦人科学会の本件見解において,体外受精の被実施者は婚姻している夫婦とされ,その解説において,体外受精を実施する病院は,被実施者が夫婦であることを確認するために戸籍を確認することが望ましいとされていたが,平成18年4月,この解説の記載が削除された。その趣旨は必ずしも明確ではないが,日本産科婦人科学会における議論の状況によれば,事実婚関係にある男女に対する生殖医療行為を容認する上記の日本不妊学会の本件見解の影響があることが窺われる(乙9の1~3)。なお,日本産科婦人科学会において,事実婚関係にある男女に対する体外受精が配偶者としての権利を侵害するおそれがあることや,それを防ぐための身分関係の調査義務等について議論がされた形跡はなく,この点について何らかの見解が発表されたことを認めるに足りる証拠はない。

・       そうすると,Bが本件クリニックを初めて訪れた平成21年1月から本件体外受精が終了した平成22年10月までの間,生殖医療行為を行う医療機関において,事実婚関係にある男女に対する生殖医療行為をすべきではないと考えられていたとはいえないし,また,これらの医療機関において,事実婚関係にある男女に対する生殖医療行為が配偶者としての権利を侵害する危険があることが認識されていたことや,その危険を回避するために被実施者に対して戸籍謄本等を提出させるなどして身分関係を確認する扱いが一般的に行われていたことを認めることはできない

・       さらに,本件体外受精の前後を問わず,本件以外に,事実婚関係にある男女に対する生殖医療行為が配偶者の承諾なく行われた事例が存在したこと,それを被告が知っていたことを認めるに足りる証拠はない。

・       以上の事実関係の下では,前記認定事実1(2)イのとおり,被告は,Bに対して問診を行い,Bから本件同意書の提出を受けた段階で,AとBが婚姻していないことを知ったことが認められるものの,だからといって,Aと原告が婚姻しており,本件体外受精が原告の権利又は利益を侵害することを予見することができたとはいえず,したがって,A及びBに対して戸籍謄本を提出させるなどして身分関係を調査する義務があったとはいえないから,それを怠ったことについて,被告に過失があったとはいえない。

(結論)

・       原告の請求を棄却する。

 

6 現在の日本生殖医学会の見解(インターネットで取得できたもの)

平成18年2月2日付け「事実婚における本人同士の生殖細胞を用いた体外受精実施に関する日本不妊学会の見解」

http://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2006_01.html

したがって、日本不妊学会は、事実婚の不妊カップルに対する本人同士の生殖細胞を用いた治療を可能とするべきと考える。

 

7 現在の日本産科婦人科学会の会告(インターネットで取得できたもの)

平成26年6月(日産婦誌66巻8号1880頁)「『体外受精・胚移植/ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する見解』における『婚姻』の削除について」

http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=66/8/066081867.pdf

本会倫理委員会では,「体外受精・胚移植に関する見解」および「ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する見解」において,その対象となる被実施者に関する項目にある「婚姻しており」との表現につき検討してきました.

「婚姻」という言葉は本来法律用語であり,法的に夫婦の関係にあるということを意味するものです.本会が昭和 58 年に公表した最初の「体外受精・胚移植に関する見解」では,当時の夫婦関係に関する社会情勢,嫡出子・非嫡出子の法律上の問題,体外受精・胚移植に対する社会的認知度を考え,被実施者の戸籍等により婚姻を確認することが望ましいとしておりました.

その後,体外受精・胚移植の一般化に伴い,平成 18 年に見解を改定した際には,「婚姻」という表現は残すものの,戸籍等の婚姻を確認できる文書の提出については削除されました.この改定は,不妊治療は産婦人科医療の重要な柱のひとつとして長く実施されてきたが,不妊治療は子供を希望する“夫婦”を対象とするものであり,不妊治療を求める男女にあらためて“婚姻関係”を確認するということをしてこなかった経緯があること,臨床の現場では現実的に医療従事者が不妊治療を求めてこられる方に対し,法的な意味での“婚姻”の厳密な確認を行うことには困難を伴うこと,またそこまで踏み込んだ問診,調査をすることは個人のプライバシーの尊重と不整合を生ずる恐れがあること,などが配慮されたものです.

その後 8 年余りが経過する中で,多くの医療施設ではすでに法的な婚姻の確認は行われなくなっています.また,社会情勢の変化により夫婦のあり方に多様性が増した結果,医療現場ではいわゆる社会通念上の夫婦においても不妊治療を受ける権利を尊重しなければならないのも事実です.「夫婦」という言葉を規定するのは国や社会全体と思われますが,本会が公表する見解においては,被実施者に関して「夫婦」である必要性を残すことにより,「婚姻している」とする表現を削除しても本医療は適切に実施できるものと判断されます.

このような観点から,対象となる被実施者に関する項目にある「婚姻しており」の表現を削除することが現時点において適当と判断し,このたび「体外受精・胚移植に関する見解」および「ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する見解」についての変更案をまとめ,本会機関誌66巻4号ならびに学会ホームページにおいて提案し,会員の意見を聴取したうえでさらに審議をかさね,理事会に答申致しました.理事会(平成 26 年 5 月 31 日)ならびに日本産科婦人科定時総会(平成 26 年 6 月 21 日)はこれを承認しましたので,ここに会告としてお知らせ致します.

本会会員におかれましては,今回の改定の趣旨を十分ご理解のうえ遵守されることを望みます.

※なお、日本医師会『医師の職業倫理指針 第3版』(平成28年10月)31頁によれば、「現在、わが国における生殖補助医療(assisted reproductive technology;ART)には法規制がなく、日本産科婦人科学会の見解に準拠し、医師の自主規制のもとに実施されている。」

8 私見

  • 平成26年日本産科婦人科学会会告及び平成25年裁判例に照らせば、不妊治療クリニックとしては、「①事実婚関係にあること、②他に配偶者はいないこと」の自己申告の確認(事実婚夫婦の署名押印は必要)のみで足りると考える。
  • 戸籍記載情報や住民票記載情報を確認する場合は、プライバシー保護・個人情報保護の観点から、必要最小限の情報取得に留めることが望ましいと考える。例えば、戸籍謄本に代え「独身証明書」とする、住民票に代え「住民票記載事項証明書」とする等。
  • なお、個人情報保護法は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用目的をできる限り特定し(同法15条1項)、個人情報の取得に際しては、原則として、その利用目的を本人に通知・公表することを求めている(同法18条)。また、個人データを利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならず(同法19条)、引き続き保有する場合でも、目的外利用は許されておらず(同法16条)、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない(同法20条)。
  • 助成金申請要件については、①行政機関が交付するものであり法の趣旨に反する交付は除外されるべきであること、②提出書類(戸籍謄本や住民票等)を受領するのは行政機関であることから、上記要件が求められ、また許容されると考える。

以上

【参考文献】

本文内にあげたもののほか、

・内田貴『民法Ⅳ 親族相続』(補訂版)東京大学出版会

・二宮周平『新法学ライブラリー=9 家族法』(第5版)新世社

・小島妙子・伊達聡子・水谷英夫『現代家族の法と実務 多様化する家族像-婚姻・事実婚・別居・離婚・介護・親子鑑定・LGBTI』日本加除出版

 

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日本の「脱・ハンコ文化」が動き出す

2020年8月5日 弁護士 吉田良夫

はじめに

新型コロナウィルス感染症が世界中で猛威を振るう中、日本のビジネスのあり方が急激に変化し始めました。
企業や組織のテレワーク(リモートワーク)の普及、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進など、新しい生活様式、ビジネス様式に進化し始める一方で、日本のデジタル化を遅らせる大きな要因の一つでもある「ハンコ」問題が顕在化しました。

これまでは、重要な契約や手続きの場において、書面に署名・押印は欠かせないものでした。また、見積書、請求書、領収書、稟議書、確認書などの事務作業上においても「書面に押印」という慣行が深く根付いていました。

しかし、2020年4月7日に新型コロナウィルス感染症感染拡大の重大局面を迎え、政府が発令した緊急事態宣言によって私たち日本国民は不要不急の外出を自粛せざるを得ない状況となりました。
ところが現実は、テレワークを推進したいのに、書面に押印するだけのために、感染リスクを感じながら出勤するといった不合理非効率が顕著になりました。
そこで、政府と経済団体は以下を公表し、「脱・ハンコ文化」に向けて始動しはじめました。

・2020年6月19日 内閣府 法務省 経済産業省 「押印についてのQ&A」
http://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf

・2020年7月8日 内閣府 規制改革推進会議 四経済団体
「書面、押印、対面」を原則とした制度・慣行・意識の抜本的見直しに向け た共同宣言
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/061.pdf
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/061.html (一般社団法人 日本経済団体連合会HP)

・2020年7月17日 閣議決定 「経済財政運営と改革の基本方針2020」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf

 

1.押印の効果は限定的

内閣府・法務省・経済産業省(以下では「政府」といいます。)は、6月19日、連名で、「押印についてのQ&A」(以下、「Q&A」といいます。)を公表しました。

Q&Aの最初の質問は、「問1 契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。」です。

その回答は以下のとおりです。

・私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
・特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。

 

そして、問2以下で、押印があるとどういう効果があるか、について民事訴訟法第228条4項をとりあげ解説しています。

民事訴訟法(文書の成立)
第228条
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

 

詳細は冒頭に指摘したURLから原文をお読みいただきたいのですが、これまでは、民事訴訟法第228条第4項の文言が、「私文書は、本人又は代理人の署名や押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」となっていますから、契約後にトラブルになって、実は契約は成立していない、などと言われないために(裁判になってもしっかりと立証するために)、契約書などの書面が正しく成立したことを推定する手段として、事実上、押印を必須としてきました。

しかし政府は、前述のとおり、「契約は当事者の意思の合致により、成立する」、「特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。」と明言しました。

もしも、その契約書が正しく成立したかどうかが裁判で争いになった場合について、以下の回答をしています。

「他の方法によっても文書の真正な成立を立証することは可能であり(問6参照)、本人による押印がなければ立証できないものではない。」(問3 回答2項)

「本人による押印があったとしても万全というわけではない。そのため、テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、『重要な文書だからハンコが必要』と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義である」(問3 回答4項)

つまり、政府は、証拠があればハンコ押印がなくても契約が正しく成立したことを立証できる、契約の際にハンコを必要とすべきではない、と述べています。

では、どのようなものが押印に代わってその文書成立の真正を証明する手段となり得るのでしょうか。本Q&Aの問6に詳しく記載されています。

① 継続的な取引関係がある場合には、「取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存」が証拠になります。
また、括弧書きで、(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得る…。)とあります。

② 新規に取引関係に入る場合には以下が証拠になります。
・契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)の記録・保存
・本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでのPDF送付)の記録・保存
・文書や契約の成立過程(メールやSNS上のやり取り)の保存

③ 電子署名や電子認証サービスの活用
(利用時のログインID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む)

 

本Q&Aは、「上記①と②については、文書の成立の真正が争われた場合であっても、下記の方法により、その立証が更に容易になり得る…。」とあります。

その下記の方法、とは以下のとおりです。

(a) メールにより契約を締結することを事前に合意した場合の当該合意の保存(b) PDFにパスワードを設定
(c) (b)のPDFをメールで送付する際、パスワードを携帯電話等の別経路で伝達
(d) 複数者宛のメール送信(担当者に加え、法務担当部長や取締役等の決裁権者を宛先に含める等)
(e) PDFを含む送信メールおよびその送受信記録の長期保存

 

2.「書面・押印・対面主義」からの脱却

日本独自文化による非効率不合理性が顕著になったことをうけて、
内閣府 規制改革推進会議 四経済団体は、2020年7月8日、
「『書面、押印、対面』を原則とした制度・慣行・意識の抜本的見直しに向けた共同宣言」を公表しました。

https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/061.pdf
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/061.html (一般社団法人 日本経済団体連合会HP)

同宣言は、「2.民民間の取引における見直しについて (2)押印についての考え方の整理」において、以下のとおり記しています。

押印に関する民事基本法上の規定の意味や押印を廃止した場合の懸念点に応える整理(内閣府 法務省 経済産業省作成の「押印についてのQ&A」)に基づき、押印が必須でない旨を周知し、民間事業者による押印廃止の取組を推進する。

 

また2020年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」
の第3章「新たな日常の実現」の1(4)①においても、以下のとおり、「書面・押印・対面主義からの脱却等」について記しています。

書面・押印・対面主義からの脱却等

書面・押印・対面を前提とした我が国の制度・慣行を見直し、実際に足を運ばなくても手続できるリモート社会の実現に向けて取り組む。このため、全ての行政手続を対象に見直しを行い、原則として書面・押印・対面を不要とし、デジタルで完結できるよう見直す。また、押印についての法的な考え方の整理などを通じて、民民間の商慣行等についても、官民一体と なって改革を推進する。行政手続について、所管省庁が大胆にオンライン利用率を引き上げる目標を設定し、利用率向上に取り組み、目標に基づき進捗管理を行う。

 

3.まとめ

政府が「脱・ハンコ文化」に向けての具体的方針を公表したことにより、日本のデジタル化が大きく前進することは間違いありません。そして、今後もその流れは止まることはありません。

私たちが、今、行うべきことは、動き出したデジタル化の波に乗り遅れることのないよう、常に情報・情勢を見極め、それぞれの企業・組織に合ったビジネス様式を新たに構築していくことだと考えます。
我々は、大きな流れの変化をはっきりと理解し、従前の「書面・押印・対面主義」を見直し、業務生産性の向上に取り組むべきだと思います。

今回は日本文化ともいうべきハンコの押印について、流れが大きく変わりましたので、政府公表資料のご紹介とともに、皆様と確認する趣旨で本稿をご案内いたしました。

今後は急速に電子署名や電子認証サービスが浸透すると思われますので、日を改め、内容をご紹介したいと考えております。
 

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A・C(アフター・コロナ)時代のWEB会議の活用法

2020年7月15日 弁護士 吉田良夫

はじめに

現在、ビジネスを取り巻く環境が大きく変化し、ICT活用による仕事の効率化が求められています。
また、2020年の新型コロナウィルス感染症問題により、場所を問わずに仕事ができるテレワーク(リモートワーク)の必然性が急速に高まっています。

当事務所では、新型コロナウィルス感染症の感染拡大が取り沙汰されるよりも前に、遠方のお客様や体の不自由なお客様などがお困りの際に、いつでも安心してご相談いただけるような環境を整えておく必要があると思い、いち早くWEB会議システムを導入しておりました。

現在では、Microsoft Teams、Zoom、Skypeという3つのツールを駆使し、このシステムに所員全員が慣れるためにも毎日活用しています。その中で気が付いたこと、大切なポイントなどについて「A・C(アフター・コロナ)時代のWEB会議の活用法」として以下にまとめました。
この情報が、皆様の新しい生活様式の一つとしてお役にたてれば幸いです。

 

1.WEB会議システム導入の必要性について

実際のところ、これは私の長い弁護士活動において初めてのテーマです。
ただ、多くの人にとっても、やはりまだ馴染みのない、しかし覚えなくてはいけないテーマです。

テレワーク体制において、所員全員が「毎日顔を合わせて会議をする」ということはとても重要なことです。
メールや電話で繋がっていても、顔を合わせないコミュニケーションだけでは気持ちの伝達が難しく、伝わらないこともあります。
また、業務上においても所員同士が「今何をやっているか」「どこまで進んでいるか」などという状況の把握がお互いにできにくくなります。
そのため「テレワーク」という業務が始まってから、当事務所では毎日WEB会議を行うようにしています。毎日行うことで、システムに関する疑問点や改善点、注意点など、それなりに気がつくことがあります。

もしかすると中には、何らかの理由によりWEB会議システムを導入することができない、または不安があるという人もいるかもしれません。
しかし、急速に進むIT化の波に乗れずWEB会議システムを導入しなければ、進化の法則での「競争」、いわゆる変化についていけず、ビジネスの世界から消えてしまうスピードが速くなる可能性があります。

環境の変化に対応できたものが生き残る。
常に「強い者が勝つ」のではなく「勝ったものが強い」のです。

勝ち負けという風に言いかえることは、少し刺激的すぎるかもしれません。
しかし、やはり企業や組織、そして人間は、長く存続できた方がいいわけです。
まずは生き残る(生存の法則)。
その次にプラスアルファの部分を考えれば良いのです。
プラスアルファの部分とは、「業績を上げる」、「知名度が上がる」、「信用される」、「良い生活ができる」、「満足感がある」等です。
このプラスアルファの前に「生存」を考えなくてはいけません。
「生存」つまり生き残るために、WEB会議システムの導入は必要不可欠なのです。

 

2.WEB会議の活用術

どうせ使わなくてはいけないならWEB会議のメリットや活用の際のポイントを十分知った上で使いこなしましょう。
WEB会議をするためには、まずツール(道具)を上手に使うことが大切です。
戦いにおいても、古今東西「武器調達」が必要です。
しかし武器を調達するだけで勝てるわけではなく、その使用法が大事なのです。

皆様は、「戦略」・「戦術」・「戦法」、それぞれに局面が違うことをご存じでしょうか。
目の前の相手に対し「今どうやったら相手を倒せるか、勝てるか」というのは、「戦法」に該当します。
物事を大きく決めるのが「戦略」です。
「戦略」があり、次に「戦術」が決まり、「戦法」を立てる。
このwithコロナ、afterコロナの状況下において、WEB会議は「戦略」ということになります。

WEB会議も直接面談も、人間がコミュニケーションを行うためのツールです。
メールやチャットなど、デジタルで大量に情報交換することもコミュニケーションの一つです。
どのコミュニケーションツールも、いかにして相手の心に訴えるか、相手の心に「好感」や「感動」を与えるか、ビジネス的には「説得力」を与えるか、解ってもらうか、という点で共通しています。

<WEB会議のメリット>
ある方が、WEB会議におけるメリットを次のように挙げられていました。
・移動時間なく会議ができる
・自分のデスク、自分の城で落ち着いて会議ができ、自分の手持ち資料も容易に見ることができる
・迫力のある人との会議では、WEB会議の方が、相手の迫力が薄れて話がしやすい
・WEB会議の方が相手の顔をしっかり見ることができる

<WEB会議における第一印象の重要性>
第一印象は、深層心理にかなり影響があります。
「メラビアンの法則」では、目から得た情報が55%、耳から得た情報が38%、言葉から得た情報が7%であり、これらの情報に基づいて人の印象が決まるとされています。
つまり、その人のイメージが決まる第一印象は、見た目の情報で半分以上が決まるということになります。それにプラスして、優しく丁寧に惚れ惚れとする声でしゃべられると、大抵の人は「落ちる」、そういうものです。
見た目のイメージの重要性、「人は見た目が大事」の原則です。

WEB会議においては、それ専用のお化粧をする、またはそれ専用のお化粧の仕方に変えるという人もいるようです。
テレビでもテレビ映り用のお化粧、身支度をして撮影にのぞむのと同様、WEB会議もテレビ類似ですから、自分の顔の表情についての何らかの手当ということは、より比重が高まります。
これを「する」「しない」は人の判断ですが、「人は見た目が大事」という観点からその余地はありそうです。現時点でも、これをされている方は結構多いということです。

<WEB会議で最も重要な「話し方」>
WEB会議の中で、一番大事なことは「話し方」です。
そのために必要なツールとして、高機能のイヤホンマイクを用意すると良いでしょう。
周囲の雑音が入らないため相手が何を話しているかしっかり聞こえ、また自分の話していることもしっかりとクリアに相手に伝えることができます。
一番大事な作法は、お互いにイヤホンマイクを使い合うことです。
パソコンのマイク、それからカメラの音声ツールだけでは、周囲の雑音を拾うため本当に聞きたい音声が聞こえにくくなります。
実はこれは携帯電話で重要ミーティングをする際にも、ビジネスの確立されたテクニックであるといえます。
携帯電話でビジネスミーティングをする時はイヤホンマイクをつけ、雑音をなるべく少なくするように最大限努力し、新幹線の移動中に大事な会議はしないことです。

次に、話し方のポイントです。
ゆっくり喋る、はっきり発音する、ただし怒鳴らない、大声とは異なる、語尾をはっきり発音する。
これらを意識するとしないでは大違いです。特に日本語の特性で、終わり末尾で Yes・No が決まります。また、語尾をはっきり言うことで迫力が出ます。

次に語尾上げ、語尾下げ。
私は、語尾下げは「運が落ちる」語尾上げは「運が上がる」と思い込んでいます。
語尾を上げると、私の感覚ですが、消極感覚を相手に与えない。
語尾下げより語尾上げの方が聞きやすい。
カラ元気でいいので、元気を出して「自信あり」と自分を思い込ませると、結構元気になります。
誰が見たって、「自信なさそうな口調」vs「自信満々の口調」、どちらを採用するか、結論は明白です。

<有効なWEB会議の進め方>
WEB会議は長引く傾向があります。スタート時間になっても、「誰々が入ってこない」とか「設定に手間取る」とか10分遅れでスタートするのはザラにあります。
また、エンドの時間を決めておかないと長引く傾向にあります。
エンド時間を決め、スタートが遅れたら、予定エンド時間に開始遅れ時間の分をプラスするだけ。
「ここで今日は終わり」と決めておくことがWEB会議のコツの一つです。
また、会議進行の進行表・シナリオを事前に用意することも重要です。
これは「戦略」の次の「戦術」に該当し、「戦法」は前述いたしました、話し方のポイント(ゆっくり喋る、はっきり発音する、語尾上げ)などです。
つまり直接面談よりもWEB会議では、自分の中のシナリオの準備がどれだけできているかが重要です。

 

3、WEB会議ツール(ソフト)について

当事務所で使用しているweb会議ツールは以下の3つです。

・Skype 無料で汎用性あり
・Microsoft Teams(有償版)
・Zoom(無償版)(有償版)

Zoomについては、少し前までは脆弱性が指摘され、使用にリスクが伴うという評価もありましたが、現在の最新バージョンではその問題は解消され、かなり多くの企業や組織でZoomが利用されています。
以前のリスク評価の真の理由として、無償版についてのチャイニーズリスク、回線が中国経由という点にあったようですが、やはり便利ということと、最新バージョンはかなりセキュリティーが強く、他のソフトと比較しても劣らないという評価です。
また、Zoom無料版の特徴として、3名以上の会議では利用時間が40分間に限られているというところです。
しかし40分経ったらティーブレイク、10分後に再び会議というスタイルで、会議の集中力が保たれ、敢えてこの会議方式をとるチーム、会社もあります。
2時間のダラダラ会議はさせないという意味のところもあり、それもありだな、と思います。

Microsoft TeamsとZoom、いずれも有償版では、パソコンと携帯とでは機能や見え方が異なることがあります。携帯でもかなり使えますが、パソコンからの方が録音・録画ができるなど利便性が高く、機能も充実しているように思います。
いずれも今後さらなるバージョンアップが期待され、さらに使いやすくなることが予想されます。

Skypeは現在のところ有償版を前提とせず、Microsoftが有償のTeamsに誘導しているところもあり、通常の身近な者との使用であれば、かなり使用感が良いです。
有償版ですと、全て録音・録画ができ、お互い参加者に対して許可をすることで、言った、言わない、の問題を解消できます。また、会議の議事録を作る手間も省けます。

 

4、WEB会議を行う上での注意点等

<WEB会議でのハラスメント注意点>
WEB会議において、「〇〇さんすみません、顔ちょっと見せてください。ちょっと笑ってみて。ところで、その着ている服いいね、どこの服?」などの発言は、セクハラです。
しかも録画されていると、ひどいことになります。
まず何より、とても格好が悪い。
WEB会議でのハラスメント、私も含めて全員気を付けなければいけません。

<WEB会議での「光」の使い方>
最後に、WEB会議での見せ方、光、照明のライティングの使い方です。
WEB会議において、画像が暗い、顔が見えない、といった状況ですと、元気がない、怪しい、何か悪いことを企んでいるのか、といったイメージになりやすいです。
ですので、いわゆる橙色の明かりで、そして血色が良くなる形でライトの効果を考えましょう。
大きな細かい技術や、専門家のライティングは不要で、少し見栄えを良くする、相手に暗い画像を見せない、それをするだけで、相当イメージが良くなります。

既に申し上げている通り、当事務所では毎日WEB会議システムを使用した所内会議を行っています。お客様との会議も、このWEB会議システムを使用する機会がだいぶ増えてきました。
回数を重ねれば段々うまく使いこなせるようになるものです。
素人の私が、ゼロから始めた者が、こういう風なことに気を付けながら、今、仕事をしています。
ほんの少しでも、お読みになった皆様のお役に立てれば嬉しい限りです。

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自筆証書遺言の記載方式の緩和について

2020年7月8日 弁護士 吉田良夫

2019年1月に施行された「自筆証書遺言の方式に関する改正」(改正後民法968条、970条2項、982条)により、自筆証書遺言の記載方式が大きく緩和されました。
改正前までは遺言書の全文(本文から財産目録に至るまで)を厳格に定められた方式に従って、正確に自書しなければならなかったのですが、改正後は、本文のみを自書し、財産目録に関しては、パソコン等での作成が可能になったほか、財産目録の代わりに銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を添付することができるようになりました。(ただし、その場合には枚数ごと(両面の場合は両面)に署名押印が必要です。枚数が多くなる場合には、財産目録を作成することをお勧めします。)

〈書式〉財産目録(Excel)ダウンロード
〈見本〉財産目録(PDF)ダウンロード

※この財産目録は、お客様ご自身で自筆証書遺言を作成する際に、少しでもお役に立てるようにと、当事務所にてご用意させていただきました。
どうぞご自由にお使いください。

なお、自筆証書遺言の記載様式については、法務省のホームページにて注意事項等の詳しい内容が記載されております。
(参考 法務省HP 「3:自筆証書遺言書の様式について」)

本改正により、自筆証書遺言がより安全で簡単に利用できるような制度に見直されましたが、全くリスクが無くなったわけではありません。
当事務所では、お客様が自筆証書遺言をご希望される際、ご自身で書かれた自筆証書遺言が有効であるか、法律的解釈が難しい文言が使われていないかなどを確認し、安心して最期のお気持ちを残せるようお手伝いをさせていただきます。

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◆法務局における自筆証書遺言保管制度がスタート

法務局における自筆証書遺言保管制度がスタート

2020年7月8日 弁護士 吉田良夫

本年7月10日より「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が施行され、これまでは自宅にて保管されることの多かった自筆証書による遺言書について、公的機関である法務局にて保管ができる制度が始まりました。
(参考 法務省HP 法務局における自筆証書遺言書保管制度について

この新しい制度について、以下のメリットが挙げられます。

≪メリット①:遺言書の紛失・改ざんリスクの防止≫

法務局にて自筆証書遺言を保管してもらうことで、遺言書が紛失・亡失されることを防ぎ、また、相続人等の関係者による遺言書の改ざん、廃棄、隠匿などのリスクも防ぐことができ、安心して確実に遺言を残すことができます。

≪メリット②:家裁での検認申立が不要≫

自筆証書遺言については、遺言者が亡くなると、遅滞なく遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所において、遺言書の存在や内容を相続人に知らせ、偽装・変造を防ぐ「検認の申立」という手続が必要です(民法1004条)。
しかし、今回の法務局にて保管される自筆証書遺言については、この検認の申立手続が不要となり、残された関係者や相続人の負担が少なくなります。

≪メリット③:公正証書遺言作成より費用が安い≫

遺言の安全性、確実性から公証役場にて公証人が作成する公正証書遺言を作成される方も多くいらっしゃいます。
公証役場において公証人が作成する公正証書遺言は、財産(遺産)の金額や条件によって変動するので参考程度となりますが、財産1億円で約5~15万円程かかると言われています。その点、法務局にて自筆証書遺言を保管してもらう際の手数料は1通につき3900円と費用はかなり安くおさえることができます。

このように、メリットも多い「法務局における自筆証書遺言の保管制度」ですが、当事務所としては従来の公正証書遺言作成の存在意義・メリットも十分あると考えております。具体的には以下のとおりです。

≪遺言者ご本人が外出できない場合≫

法務局における自筆証書遺言の保管制度を利用するためには、予約の上、遺言者ご本人が法務局に出向く必要があります。また、全ての法務局がこの保管制度を扱っている訳ではなく、特定の法務局に限られています。
(参考 法務省HP 法務局遺言書保管所一覧

また、遺言書を預けることができる法務局は以下いずれかに該当する法務局となります。
1.遺言者の住所地を管轄する法務局
2.遺言者の本籍地を管轄する法務局
3、遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局
(参考 法務省HP 遺言書保管所管轄一覧

遺言者ご本人がご病気等の事情で外出が困難な場合、公正証書遺言作成であれば、出張料をお支払いいただくことで公証人がご自宅や施設等へ出張の上、対応してもらうことができます。ご高齢や持病のある遺言者様にとっては、この点は公正証書遺言作成の大きなメリットとなります。

≪遺言文書作成の負担≫

自筆証書遺言作成の際、本文についてはご自分で自書する必要があります。
ご自分としては自筆証書遺言の文言は誰が読んでも明確にわかる内容のはずだと思っていても、相続発生後に遺言執行する段階で、その内容が曖昧で、遺産の帰属が明確にならないため、その部分だけ遺産分割協議が必要になるといった事態がありえるかもしれません。

また、法務局で保管してもらうためには、法務省令(法務局における遺言書の保管等に関する省令)が定めた作成様式で作成する必要があります
(参考 法務省HP 自筆証書遺言書の様式等についての注意事項

その点、公正証書遺言であれば、遺言内容の趣旨(どの財産を誰に相続させるか等)を公証人に伝えることで、専門家である公証人が内容に疑義が生じない遺言書案を作成してくれますから、前記の心配がなくなります。

≪遺言者の意思確認≫

法務局での保管制度を利用した自筆証書遺言であっても、法務局は遺言書の形式的な部分(本人であるか、名前、日付が書かれているか等)の確認のみを行い、遺言書の内容についての確認・アドバイスは行いません。
その点、公正証書遺言作成時には、公証人は事前に文案を作成し、当日は遺言者に遺言内容一つ一つを口述(筆談、通訳を介しても可)してもらうことで遺言の意思確認をしながら、公正証書遺言を作成します。その際、証人2名も立ち合います。
このことを考えますと、相続発生後に、相続人間で「その遺言は本当に本人の意思に基づくものか、遺言は無効ではないのか?」という争いになった場合には、公正証書遺言は相当強い証拠となりますので、相続発生後の紛争予防になると考えられます。

これまでのご説明のとおり、「法務局による自筆証書遺言保管制度」にも「公正証書遺言」にも、メリットと、デメリットとは申しませんが負担または課題は残ります。

吉田総合法律事務所は、ご相談者のご希望を重視し、どちらの制度にも対応する方針です。
遺言者様のお悩み事やご希望など、お話を丁寧にお聞きし、遺言者様に合ったサービスを提供し、納得のいく遺言書作成のお手伝いをさせていただきますので、遺言書作成をお考えの際には、ぜひお気軽にご相談ください。

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◆自筆証書遺言の記載様式の緩和について

当事務所のビジネス契約書の検討方針について

2020年6月16日 代表弁護士 吉田良夫

~ビジネス契約書にはどのように対応すべきか~

現代社会は契約と密接不可分の関係にあります。
特に現在の「With コロナ」、「アフター・コロナ」においては、既存の契約内容を遵守できず変更の必要が生じる場合や、全く新しいビジネスの合意が必要になる場合が増加するはずです。
また、「コロナ第2波」に備えるため、「債務不履行の免責または軽減条項」、「不可抗力条項の充実」の検討も必要になるかもしれません。

そもそも契約書の「契約」の部分は「交渉を前提とする合意形成」を意味し、契約書の「書」の部分はその「合意」を書面にする作業という意味を有しています。
そのため、当事務所では、当事者間のパワーバランスに注意して契約書の検討作業を行います。
もし相手パワーが強大な場合は相手に対し契約条項の変更を求めても変更は困難です。
その場合は契約書にどのようなリスクがあるかを具体的に予想することで、Clientのリスク回避に貢献する方が、Clientの役に立つ契約書チェックといえるはずです。

また、契約書が日本語で書かれていても、標準日本語と思い込まないでください。
契約書の条項中に、特殊な意味の業界用語が含まれているかもしれません。
業界用語の中には、省略形の単語でありながら経済的(ビジネス的)に大きな意味を持つ用語もありますので、注意が必要です。

さらに、契約書は安易な気持ちで流し読みをしないでください。流し読みは危険です。
契約書の文言は、一語、一節、一文を細部まで気を抜かずに検討し、その積み重ね作業により「相手の真意は何だろう? 落とし穴はないか?相手の戦略・戦術は何だろうか?」といったことまで考えながら読み込む姿勢が大事です。

次は、星野光子弁護士が、シンプルな契約類型を前提に「ビジネス契約書のチェックポイント」の一例をご披露いたしますので、ご覧ください。

 

 

ビジネス契約書のチェックポイント

2020年6月16日 弁護士 星野 光子

はじめに

アフター・コロナ(A・C)においては、今まで以上に契約書の重要性が高まると考えられます。今回、予想しなかった事態が生じたことで、リスク管理の観点から契約書の見直しが必要になったり、アフター・コロナを見据えた新しいビジネスモデルの検討が増えると考えられるからです。

弊所では、平時から、多岐にわたる分野の契約書チェック・作成を多く取り扱って参りました。

そこで、弊所における契約書チェックの例をご覧頂ければと思います。

 

契約書チェックのご依頼を受ける際にお伺いすること

弊所では、初めて契約書チェックのご依頼を受ける際、ご依頼者様と相手方の業種、業界、資本金、売上高、従業員数、これまでの取引状況等をお伺いすることがあります。業界慣行、取引慣行、ご依頼者様と相手方とのパワーバランス、ご依頼者様と相手方との信頼度等を知るためです。

民法92条は「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。」、商法1条2項は「商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる。」と定めています。業界慣行、取引慣行を知ることは、契約書解釈に必須です。

また、契約書の交渉においては、パワーバランスを考慮せざるを得ません。ご依頼者様のお話を伺い、相手方とのパワーバランスから、相手方が出してきた原案をどの程度まで当方有利に修正するか検討します。

さらに、ご依頼者様と相手方とのこれまでの取引状況から、ご依頼者様と相手方との信頼度をはかり、どの程度、契約書を詳細にするかを検討します。

 

契約書交渉に関するアドバイス

契約書チェックはリスク管理のために行いますが、当方有利な修正案に相手方が応じない場合は、相手方とのパワーバランスを考慮し、ビジネスの推進を優先させるか今回の契約は断念するかを決めなければなりません。最終的な決断は、ご依頼者様の経営判断となります。

弊所では、交渉時の具体的な対応の方法もご提案させて頂きます。

(一例)

  • 譲れないポイントと譲ってもよいポイントを分ける。
  • 修正の要望を多く出し、譲歩幅をもつ。
  • 契約締結を急がない。

 

以下、契約類型毎に、原案に変更履歴を付した修正案をお出しします。ぜひご覧ください。

 
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