非上場・中小企業向け株主総会Q&A 

~はじめに~

上場企業の株主総会対策については、セミナーや文献などが様々あります。他方で、数としては日本で99%以上を占めるはずの非上場企業を対象としたものはあまり多くありません。
 そこで、これまであまり取り上げられてこなかった非上場企業の株主総会対策について、令和2年7月16日に「非上場企業の株主総会のチェックポイント」と題するセミナーを弁護士吉田良夫が行い、好評を博しました。本連載では、そのセミナーでの内容を元にQ&A形式で、実務のコツや、法令違反してしまいがちなポイントをご紹介いたします。

 今回の内容は形式的・教科書的な制度説明だけではなく、実際に弁護士吉田良夫が非上場企業から質問を受けて頭を悩ませた事例、それから文献の中で、非上場企業で起こる問題で解決策が見当たらないものついて、どういう状況で問題が起きるか、どのような考え方、やり方があるか、回避するためにはどうすればよいかをご紹介できればと思います。

 非上場会社の株主総会は、株主総会に対して非常にコストをかける上場企業と異なり、弁護士に対するニーズが少ないため、マニュアルがあまりありません。
 そのためにますます非上場企業側は、あまり資料がない状態のまま手探りで、過去の株主総会に使ってきた会社の古い事例を前提に総会対応しているところが多いようです。
 しかし時代は変わります。
 近年、法令順守の要求が強く、そしてこれから経済環境が厳しくなれば、お金の扱いについての目線が厳しくなります。株主総会を通じて、企業のお金が移動する機会は多くありますので、その観点から経済が豊かな時よりも、経済が厳しい時の方が、株主総会における法令遵守が経営側に求められます。

 本連載は国内の非上場企業向けに情報をまとめたものです。会社法の制度は複雑で、取締役会の設置の有無、監査役会の有無、株の譲渡制限の有無など様々な要素によって、Q&Aの結論が変わってくることもあります。本稿では、取締役会があり、監査役会はなく監査役がいる、株に譲渡制限がついている会社を想定して記載しておりますが、具体的な事例に適用する場合には専門家のチェックを経るなど、取り扱いにはご注意ください。法律の枠組みを伝えることを優先し、些末な例外事象の説明は除外しているところもあります。また、本連載はセミナー公演時において適用される法令を前提としており、その後の法改正は反映しておりません。本連載により生じた一切の損害については責任を負いかねますのでご了承下さい。

【目次】「非上場・中小企業向け株主総会Q&A」ご提供について ※ご参照ください。

 

Q1 どのような事項について株主総会決議が必要ですか。

 取締役会設置会社では例えば以下のような事項については、株主総会決議が必要となります。

・定款変更、合併、株式交換移転、会社分割、資本減少、解散等(会社の基礎的事項の変動)
・取締役の選任解任、監査役の選任解任など(役員の選任解任)
・計算書類の承認(上場会社では取締役会決議で承認され株主総会では報告事項)
・剰余金処分、第三者に対する新株の有利発行、自己株式取得(株主の重要な利害に関する事項)
・取締役の報酬、役員退職慰労金(報酬等)

1 総論

 株主総会は原則的には一切の事項について決議をすることができる機関ですが(会社法295条1項)、取締役会を設置している場合は専門機関である取締役会に多くの決定事項が委ねられ、①会社法が規定する事項と②定款で定めた事項に限り、株主総会は決議できます(295条2項)。経営はプロである取締役たちに任せ、株主は重要なこと等必要があるときのみ判断をするべきという発想です。
 そのような前提に立ち、会社法が株主総会の決議を必要とするとした事項については、定款で権限を委譲しても無効となります(同3項)。

2 計算書類の承認について

(1) 上場企業では、監査法人が監査証明を出すので、計算書類は取締役会で決議する だけで良く、株主総会では決議はせずに報告だけ、ということになります(会社法439条)。
(2) しかし、非上場企業では株主総会で決議しないと、計算書類は確定しません。非上場企業において株主総会が適法に運営・決議ができないと、計算書類が確定されないので、その結果、納税金額が決まらないことになってしまいます。余談ですが、ある会社では50:50の2人の株主が対立し計算書類の確定ができないことから納税を仮の金額(確定前の金額)で行わなければならない事態に陥りました。

3 剰余金処分について

 利益配当、剰余金の処分では、平成17年に商法が会社法に変わった際に、重要な要件が追加されました。剰余金の配当の金額のみならず、剰余金の配当が「効力を生ずる日」も株主総会にて決議する必要があるという点です(454条1項3号)。
 ところが伝統的な中小企業で問題のない会社は、昔ながらの書式を使って、この効力発生要件の、剰余金の配当が効力を生ずる日を決議しないまま、ずっとお金を払っていることがあるので、再度確認されることをお勧めします。

4 その他

 そして、第三者に対する新株の有利発行、自己株式取得、取締役の報酬(報酬は総額の意味)、役員退職慰労金があります。
 会社の社長が退任され、これまでの功労に報いるため役員退職慰労金を決議し、お金を払うのは当然のことです。しかし、株主総会決議なしにお金を払ってしまった、総会決議に入れ忘れて誰も気が付かなった、という問題も非上場企業では、起こり得ます。

Q2 会社法規定事項・定款事項ではないが株主総会決議をする場合があるが、なぜか?

A 「勧告的決議」です。

取締役会のある会社の株主総会で決議できる事項は以下の2つです(会社法第295条2項)。

・会社法に規定する事項
・定款で定めた事項

しかし、これ以外の事項も株主総会で決議が行われることがあります。

 例えば、近年では敵対的企業買収に対抗する防衛策の導入や発動に際して、定款変更による総会権限の拡大をしないまま株主総会の決議を経ることがあります(勧告的決議)。
 この場合、株主総会決議としての法的効力は認められないとしても、株主による意見の表明という意味はあると考えられます。

 非上場企業の場合には、株主全員が決議、賛成をすれば、この勧告的決議には法律上効力はなくとも、個別に株主が同意書を出したのと類似の効力が生じると考えられます。
 よって困った時には、この株主総会で勧告的決議に入り、なるべく多くの株主が賛成した、というファクトがあれば、後日裁判が起こされたり、後日何らかの行政に説明する時に一つの言い訳にはなります。
 もしくは、会社の分割されたオーナーである株主の多くの意思は賛成していると、もしくは多くの意思は許したという説明に使えます。
 よって無いよりはいい、という法律的にはその程度ですが、現実的には紛争を活発化させない機能はあるとは考えます。
つまり絶対的効力はないが、困ったときにはそれを検討することが、実務ではアドバイスすることがあります。

Q3 定時株主総会を上場企業は決算日から3ヶ月以内に開催し、非上場企業は決算日から2ヶ月以内に開催しているのはなぜですか?

A 上場企業が3ヶ月以内なのは基準日制度のため、非上場企業が2ヶ月以内なのは納税のためと考えられます。

定時株主総会は上場企業では決算日から3か月以内に開催し、非上場企業は決算日から2か月以内に開催しています。それはなぜでしょうか?
上場企業は基準日制度を採用しており、決算日を基準日にしています。基準日制度とは、その基準となる日の株主名簿上の株主を、後日権利行使できる者と定めることができる制度です(会社法124条1項)。上場会社では日々株主が入れ替わるため、この制度がないと株主総会の際に混乱をきたしてしまうからです。そして、基準日からの権利行使は3か月以内に行わなければならないこととされています(会社法124条2項)。
他方で非上場企業では、そもそも基準日制度を利用しないところがほとんどであり、株主総会で計算書類を承認、確定します。そして、その確定後、法人税を支払います。
法人税・消費税は決算日から原則として2か月以内に納付することとされており、決算を確定させて納税をするために2か月以内に定時株主総会を開催することが重要です。
なお、上場企業では、計算書類は会計監査人(監査法人)の無限定適正意見(すべての重要な点において適正に表示されているという意見)を付した会計監査報告を頂いて、それにより、株主総会ではなく取締役会で計算書類を確定させます。そのため、3月末決算で、定時株主総会を6月末に開催することとしていても、既に取締役会で計算書類を確定しているので、それに基づいて納税ができます。

【コラム】-非上場企業で、決算を確定させずに納税するケース-

上記のように、非上場企業は、決算から2ヶ月以内に株主総会で計算書類を確定させ、納税をするのが一番です。
しかし、50%ずつの株を保有する株主が対立し、他方の協力が得られず決算を確定させることができないような事例が、小規模な非上場企業では起こり得ます。
この場合は、将来的に決算が株主総会で確定されることを願いながら、未確定の決算の数字を前提として納税をすることになります。

Q4 定時株主総会で計算書類の承認を行う予定だったが、問題が起こり定時株主総会を開催できなった場合に、臨時株主総会で代替することはできますか

A できます。

会社法ができる前の旧商法の時代には、計算書類の承認・剰余金の配当の決定を臨時株主総会の議題とすることはできませんでした(旧商法283条1項参照)。しかし、会社法が平成17年にでき、臨時株主総会においても剰余金の配当と、その際の臨時計算書類の承認もできるようになりました(会社法441条4項)。

このようなことが起こる例として、例えば議長である社長が体調不良を起こし、社長以外の方が代役として開催するのも急には難しい、というような場合があります。
また、株主間紛争が起きて、株主が真二つに割れてしまい、主流派、反主流派、どちらも議決権で過半数が取れず、その結果、株主総会で計算書類を確定できない場合もあります。

もし、緊急事態的に臨時の株主総会で計算書類を確定しなければいけないという時には、上記のような臨時株主総会という方法を取ることができます。一番良くないのは、定時株主総会が開催できない、もしくは定時株主総会で計算書類を確定する決議ができないという事態が起こった際に、「では来年の株主総会でやろう」と考えることです。これではさすがに、確定するのが遅すぎることになります。

上記のように、臨時株主総会によって配当をすることがいつでも(配当原資がある限り)可能ですので、会社によっては臨時株主総会を開催して年に何度も配当を行うことも可能です。
なお、上場企業では剰余金の配当については一定の厳格な条件を満たす場合には定款で取締役会に配当を決定する権限を与えることができます(会社法459条1項4号)。日本の企業でも、この制度を使って米国企業のように四半期配当(年に4回配当)を行う上場会社があります。

Q5 臨時株主総会ではどのような決議をされることが多いでしょうか

 取締役の選任・解任、第三者割当増資などを行うことが多いです。

例えばですが、3人の取締役がいる会社で、1人の取締役が死亡又は辞任で2人になってしまい、補欠取締役も定めていなかったため、取締役を1名追加する場合があります。これが一番多いでしょうか。
新事業をスタートさせる際に、定款にその事業が会社の目的として記載されていないことが発覚し、定款変更を決議する場合もあります。定款の目的の記載は形骸化されているとも言われますが、本来、会社の権利能力は定款に定められた目的の範囲内に限定されます。
そして非公開会社の第三者割当増資、また特に有利な(特に安い金額での)第三者割当増資です。それから取締役解任。解任の時には臨時株主総会を開いて解任するというのがとても多いパターンです。

Q6 定款の目的の記載について注意することは何ですか

 「前各号に付帯関連する一切の事業」でカバーしきれていない事業を行っていないか、という点です。

会社を設立するときに作成する定款で目的を思いつく限り20個も並べ、更に「全各号に付帯関連する一切の事業」と最後に付けておけば、これで定款の目的外の事業をしてしまうことはないだろうと安心するのが普通です。しかし、「付帯関連」する事業という記載ですので、全く別の畑の事業に手を出す場合は、定款の目的から外れることになります。
時代が変化し、当初は考えもつかなかった事業を行うことはよくあります。新規事業を考えるときに、マーケティングなどは考えても、定款変更までは中々注意が向かないことが多いと思います。

また、100%出資の子会社が行う事業は、親会社の事業と考えるのが一般的な考え方と言われています。多くの100%子会社がある会社で、子会社がそれぞれ新規事業を始めれば、すぐに「付帯関連」しない事業も生じることでしょう。また、知り合いから事業を買わないかとM&Aの話が来たため、業種の違う会社を購入する場合にも注意が必要です。

これを回避するため、定款の目的については、「商業、商取引、法律に抵触しないあらゆる事業」と記載してしまうのも一つの手です(参照:「会社法の実務 中村直人倉橋雄作著 商事法務 41頁」)。

【コラム】

定款の目的の範囲外の取引を会社が行ったことにより商取引が無効となる可能性は現実的にはほぼ皆無と思われます。そのため、定款の目的にはそこまでこだわらなくてもよいという考えもあります。
しかし、株主に経営陣と対立する株主がいる場合には、現経営陣への攻撃理由に使われることがあります。定款の目的外の行為を行っている=法律に違反していることを行っている、既にこの事業に使った金銭については合法でない支出であり、経営陣は責任を取れという言い方をされた事案が過去にありました。揚げ足を取られないようにしっかりと守備固めをしておくことが肝要です。

Q7 株主総会招集通知の発送について特に注意すべき点は何ですか

 株主名簿の記載に忠実に発送することと、発送日と総会当日の間に1週間必要(発送日と当日を含めると9日間必要)であること等です。

株主総会招集通知の発送については、全て株主名簿の記載に基づく必要があります。当然のようにも思えますが、直前に会社と親しい関係にあった株主が亡くなったことを会社の役員が知っていた場合はどうでしょうか。お亡くなりになった方の名を宛名に書いて送るのはご遺族に対して失礼に当たると考える方もいるかも知れません。
しかし、死亡された株主に対しても、株主名簿の記載とおりに発送する、これが法律です。
その上で、非上場企業の皆さまの場合には、「法律の定めで株主名簿記載のとおり、亡くなられた方のお名前でお送りしますが、ご容赦ください」とご遺族に連絡を入れておくべきでしょう。とにかく株主名簿に基づいて発送したという事実を会社は作り、手元に控えを残しておきます。その上で、次に相続人が議決権行使する時は、その時にまた考えれば良いです。

非公開会社では原則として、株主総会の日の一週間前までに、株主に対してその通知を発しなければならないと規定されています(会社法299条1項かっこ書)。株主総会が翌週火曜に予定されているとして、発送は火曜で良いでしょうか。この点については複雑な議論があるのですが、実務的には総会の日と発送の日の間に7日必要(中7日)となります。

所在不明株主には、招集通知を送る必要はありません。これは5年以上、株主総会招集通知を発送したけれど、相手がいなくて戻ってきたという場合で、この場合は所在不明株主になります。この場合、戻ってきた招集通知は捨ててしまうのではなく、証拠として会社で保管することが大切です。

また、非上場企業の場合、株主間での話し合いがしやすく、議決権のない株式を発行し、優先配当する株式(いわゆる種類株)を作る場合があります。議決権を行使できない、いわゆる議決権のない株主に対しては株主総会の招集通知は送る必要はありません。

Q8 株主総会の開催場所について注意点はありますか

 定款に記載(本店所在地等)があればその記載とおりに開催し、記載がなければ適切な場所で開催する必要があります。

株主総会開催場所についての注意点は、定款に記載(本店所在地で株主総会を開催するなどの記載)があれば、その記載どおりに開催することになります。
しかし、定款に開催場所について何も記載がなければ、開催場所に制約はありません。極端な話、外国で開催することも可能ということになります。株主が分散されている場合などは、臨機応変に開催できるという意味で、開催場所の文言を削除することが、便利ではあります。

他方で、注意点があります。過去に開催した株主総会開催場所と著しく離れた場所で開催する時は、その離れた場所で総会をすると決定した理由、それを招集した株主総会にて原則として説明する必要があります(会社法施行規則63条2号)。また、株主が出席できない場所で株主総会を開催すると、出席できない株主から、これは自分が出席できないことを狙った招集だということで、後で株主総会の決議取消訴訟という裁判をかけられる可能性はあります。そのため、普通の会社では外国で開催することは現実的には採り得る選択肢ではありません。

そういう面倒はありますが、しかしながら総会の場所を臨機応変に開催できるという便利さ、これはこれで便利なもので、頭の中に入れておくと良いでしょう。

Q9 株主総会の開催日時を決める際の注意点はありますか

 前期の株主総会の日と著しく離れた日を定時株主総会日とするときは理由を書く必要があります

株主総会開催日時を前期の株主総会の応答日と著しく離れた日とする場合には、その日時にした決定理由を定める必要があります(会社法施行規則63条1号)。
前年と1~2週間程度ずれる分には問題はないです。ただ、何らかの理由で非常に大きくずらした場合や、特定の方が来られないタイミングを狙って開催した場合は決議取消訴訟の対象となる可能性があります。

【コラム】 -招集通知の言葉について-

招集通知の目的事項とは、報告事項と決議事項
報告事項は、会社の業績についての事業報告のことです。
業界はこのような感じで、我が社はこのような感じでした、というものです。
そして決議事項については、よく「議題」と「議案」という言葉が出てきます。
議題とは、「計算書類承認の件」、「取締役〇名選任の件」など、決議事項の具体的内容を含まない題目のことで、具体的内容ないものです。テーマが分かるもの、これが議題です。
議案とは、決議のドラフトのことです。議題の具体的内容であり、計算書類の具体的「内容」、選任する候補者の具体的「内容」(誰々という話ですね)などのことです。

株主総会参考書類とは

書面投票において、賛否判断をする際の参考情報が記載された書面です。
ここには議案、決議のドラフトが記載されます。

議決権行使書面(書面投票)とは

株主自身が総会当日に会場へ行かず、出席しないで議決権を書面投票で行使できる、賛否の意思を表記する書面のこと。
上場企業の議決権行使はほとんどがこの議決権行使書面、書面投票です。

電子投票( 電磁的方法による議決権行使)とは

会社の設置するウェブサイトにアクセスして議案の賛否を入力すること等により電子投票を行う方法のことです。新型コロナウィルス対策の関係で、新聞などに多く出た言葉です。
ただ、非上場企業の場合は、この電子投票まで対応されている企業は非常に少なく、また、その必要もないと思っております。それよりは、コストをかけずに、しっかり株主を把握され、書面投票で処理する方が良いと思います。

代理人による議決権行使

議決権の代理行使とは、委任状により他者を自分の代理人として出席させ、会場で代理人により議決権行使する方法です。これは単に議決権行使だけではなく、意見を言ったり、質問したり、そういったことも代理人は行えるという前提です。
定款に、「代理人は株主に限り、代理人の人数は1名」と明記されていること多いのですが、まず明記されているかどうか、確認されると良いと思います。

Q10 株主から弁護士を代理人として株主総会に出席させたいと言われた場合はどのように対処すればよいですか?

 事情によりますが、認めた方が良い場合があります。

この点は、実務として多い問題です。株主が自らの代わりに弁護士を代理人として株主総会に出席させ、質問させたり、議案について修正動議を出させたり、手続的動議を出させることがあります。
議案の修正動議とは、配当一株あたりの金額を増額してくれといった内容や、取締役の人数が多すぎるから一人減らしてくれといった内容が典型です。なお、取締役の数を増やすよう総会で要求する場合には、これは議案の修正動議には入りません。例えば5人を6人にするのは、それまでの議案とは別個の議案を出すことと同じと考えられています。
手続動議とは、議長交代が典型的なものであり、株主総会のやり方に異議を出すものです。

これらについて、株主の代理人が行えるかどうか。例えば、定款には、「代理人は株主に限り、代理人の人数は1名までとする」と記載されているが、株主ではない弁護士を代理人として選任できるかどうか。
裁判例の結論は分かれています。特に上場会社では認められやすい傾向にあるようです。
よって実務としては、今の状況で株主が弁護士を代理人にして、その総会に参加させたいといった場合に、会社としては認める、認めない、どちらを採用してはいけないとまでは断言できない状況にあります。ただ、弁護士による代理を容認した場合は、その会社において先例になる可能性があるので、将来また同じような話が出たら、同じように受け入れざるを得ないことになる可能性が高いと言えます。
また、非上場企業では計算書類が決議事項ですから、弁護士と会計士を代理人にして、この計算書類について確認したい、計算書類が間違いじゃないか、お金のごまかしがあるのではないか、といった内容を総会のやり取りを通じて、証拠として取ろうとするケースも、紛争事例ではあります。
そのような、弁護士と会計士、両方を代理人として出席させたいといった要求が株主から来た場合に、認めるか認めないか等があります。
このような場合、対立が先鋭化して喧嘩モードになってしまうところであり、「代理を認めなければ株主代表訴訟を提起する」といった要求が来ることが多いのですが、会社は冷静にご対応いただいて、株主となるべく合理的な情報交換をするとともに、紛争を作らないようにする、紛争を拡大させないようにする、ということが大事だと思います。

Q11 委任状による議決権の行使がされる場合の注意点は何ですか?

 定款の定め、委任状の内容(修正動議を出すこと、修正動議に対する質問と投票をすることが含まれているか)、代理人資格の確認はどうするか等に注意する必要があります。

1 委任ができるかという点について

平時では委任状により議長に一任したり、他の株主に委任をしたりすることはよくあります。
紛争時の委任状では代理人が会社側の人物ではなく、先ほどのQのとおり、弁護士や会計士を代理人としたい旨の要求が出される場合があります。
その場合には、繰り返しになりますが、定款を確認してください。委任を受ける者、これを株主1名と明記してあるかどうか。
また、反対株主の委任状を確認し、委任事項に、修正動議を出す旨、修正動議に対する質問をする旨、投票する旨などが記載されているかどうか、確認してください。
これらを満たす場合は、反対株主の代理人は株主総会において問題なく全てを行うことができることになります。また、弁護士や会計士などが株主ではない場合(が多いのですが)には、先ほどのQのとおり、代理人としての議決権行使を認めてよいかを検討することになります。

2 代理人資格の確認方法について

 また代理人資格として、弁護士と称する者が当日突然来て、その弁護士であるという証拠をどうやって確認するか、という点も問題となります。弁護士の場合には、弁護士の身分証明書があり、その提示を求めたり記章(いわゆる弁護士バッジ)と登録番号を確認するなどの方法で相当程度本人確認を確実にすることができます。代理人が委任状に記載された本人であるかの確認方法をどうするかも、問題が起こりそうな株主総会の前には検討しておく必要があります。

Q12 非上場企業の招集通知作成の際に気をつけることはありますか。

A 必要記載事項の抜け漏れがないか、添付する書類に漏れはないかを確認してください。

1) 発信日・開催日時・場所・議題・提出議案(議案の概要の記載)に誤記・漏れはないか。

2) 事業報告に昨年記載部分や誤記等のケアレスミスはないか(出席株主から誤記を指摘されることあり)

一般に招集通知や事業報告は、過年度のデータを修正して作成することが多いと思われますが、修正していない部分があるまま印刷・送付してしまうことがあります。日時や金額などの数字の部分を、後で確定してから修正しようと担当者が考え、修正を忘れてしまう例が多いです。

3) 計算書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)の作成送付はしているか。

計算書類とは、貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表の4つです(会社法435条2項、会社計算規則59条1項)。
株主資本等変動計算書とは、貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本、その株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成される決算書です。
これは計算書類の一部として、すべての会社に作成する義務があります。非上場企    業で全てを会計士や経理担当に任せていて社長が株主資本計算書、株主資本等変動計算書を作っているか確認していない場合、確認することをおすすめします。

個別注記表とは、重要な会計方針に関する注記、貸借対照表に関する注記、損益計算書に関する注記など、各計算書類に記載されていた注記を1つの書面として一覧表示するもので、会社法により計算書類の一部となりました。
個別注記表については、「注記表」という1つの書面として作成する必要はなく、貸借対照表等の各計算書類の注記事項として記載してもよいです。

株主資本等変動計算書・個別注記表の作成を怠っている会社は散見されますので、注意が必要です。

4)附属明細書は、作成義務はあるが、発送する必要はない

附属明細書は、有形固定資産及び無形固定資産の明細、引当金の明細、販売費及び一般管理費の明細についての事項のほか、株式会社の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表の内容を補足する重要な事項を表示する書類(会社計算規則第117条)です。
計算書類の附属明細書は、会社法第435条第2項により作成義務がありますが、株主総会招集通知に添付して発送する義務はありません(会社法第437条参照)。

※注意※
・紛争時に、反対株主から、総会の場で附属明細書の交付を要求されることがある。
・作成していない場合は作成する必要がある。
要求された際に、もし作っていなかった場合は、正直にその旨を伝え、早急に作成すれば問題はありません。

5)監査報告書

2020年は新型コロナウィルスの関係で、上場企業では監査役は招集通知の中に監査報告書を同封し、そこで監査報告書で法令違反はなく、特に指摘する事項はないと書く例が多くありました。しかし例年であれば、実際の総会で、監査役は株主の前に出て、監査報告書のとおり読み上げて、以上ですと帰っていきます。今年6月総会では、ほとんどの会社は、監査役の監査報告書を総会では省略していました。
どういうことかというと、会社法第384条は、監査役は法令もしくは定款に違反し、著しく不当であると認める事項がある場合には、(問題がある時は、)その調査の結果を株主総会で報告しなければならない、と定められています。つまり、問題がある時は、その結果を報告し、問題がなければ報告しなくて良いのです。
では今まで上場企業が総会で監査役が問題はないと報告していたのは何か、それは言わば、法律は求めていないけれども、監査役が職務を誠実にしていたことを表現するセレモニーとして行っていたもの、慣行として行っていたものと解されます。
今回の新型コロナウィルスの状況では、接触を短くする、時間を短くする観点から、監査役は報告を省略する、というのが実務として今年は多く使われました。
頭の中に入れておいていただいて、来年ももしこの新型コロナウィルスの状況が続き、総会を短くしたいという時や、監査役がその日程に出席することが困難であるという時は、監査役の監査報告は、問題がないのであれば、当日報告は省略して結構です。
ちなみに取締役、監査役、全員株主総会に出席するのが、これまででしたが、今年の新型コロナウィルスの関係で、上場企業では出席取締役数、出席監査役数をわざと縮小するというケースが多く使われました。理論的に言うと、出席できるのに出席しないというのは、そこで株主総会で質問が来た時に回答するということもしない訳ですから、厳密に言えば善管注意義務違反の問題がありうるのですが、今回のような特殊事情があれば、問題なしと解されるでしょう。

6)会社側を受任者とする委任状(足を運ばない株主の議決権行使のため)

株主総会を成立させるためには、株主総会に出席した株主の議決権の合計が過半数に達している必要があり(会社法309条1項:定足数。定款で引き下げ可。)足を運ばない株主の議決権行使のため、議長に一任するという形での委任状を出すよう依頼するのが一般的です。

7)書面投票をしない場合は、参考書類・議決権行使書面はない。

会社法301条1項は書面投票をすることができることを定めた場合は、招集通知に際して、株主総会参考書類と議決権行使書面を交付しなければならないと定めています。そのため、反対解釈として、書面投票をすることができることを定めなければ、これらの書類の交付義務はないことになります。委任状による投票(他人に委ねる投票)と、書面投票(株主総会に出席しないが自らが決定して行う投票)は一見似ているようで異なりますので区別して理解することが必要です。

Q13 議案の概要の記載について注意する点はありますか

A 議案の概要の記載が特に必要なものは、取締役会で決定をして具体的に記載する必要があります

書面投票、電子投票を採用しない場合は株主に株主総会参考書類を交付する必要はありません(会社法第301条参照)。
しかし、その場合でも、役員選任、役員の報酬、定款変更、M&Aなどを決議する場合は、議題だけでなく議案の概要を決定し(会社法施行規則63条7号)、それを書面で通知(郵送が一般)する必要があります(会社法第298条1項5号、会社法第299条4項)。

<議案の概要の記載が必要な事項(例)>
 以下の事項などを株主総会の目的とする場合は、議案の概要(議案が確定していない場合は、その旨)を記載する必要があります(会社法施行規則63条7号)。

・役員等の選任
・役員等の報酬等
・全部取得条項付種類株式の取得
・株式の併合
・特に有利な金額で募集株式を引き受ける者の募集
・特に有利な条件有利な金額での募集新株予約権を引き受ける者の募集
・事業譲渡等
・定款変更
・合併
・吸収分割
・新設分割
・株式交換
・株式移転

Q14 附属明細書について総会で質問が来たら、議長や他の役員は回答義務がありますか

 計算書類の附属明細書の記載事項を敷衍する程度については説明義務がある、と考えられます。

計算書類などの株主総会での扱いについて整理すると以下のとおりです。

1 株式会社は、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの付属明細書を作成しなければなりません(会社法435条2項)。

2 また、取締役会設置会社では、担当取締役が計算書類及び事業報告並びに付属明細書を作成した後、監査役の監査を受け、その後いわゆる決算承認取締役会の承認を受ける流れになります(会社法436条1項)。

3 その上で、取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、上記計算書類及び事業報告を株主へ提供(送付)しなければならず(会社法437条)、計算書類は会社法438条2項により株主総会の承認を受けます(普通決議)。

株主総会では議案の賛否について、株主が判断するためにされた質問については、回答義務があると考えられ、附属明細書は、計算書類・事業報告の内容を補足する重要な事項を表示するものですので(会社計算規則117条、会社法施行規則128条)、その記載事項を敷衍する程度については説明義務があると考えられます。些末な点について嫌がらせ目的のように質問がされた場合には、説明できなくても問題が生じる可能性は低いでしょう。

Q15 非上場会社の剰余金処分(昔の利益配当)議案の注意点は何ですか

A 「剰余金の配当が効力を生じる日」を記載していない会社があるため、注意してください。

大まかに言えば、剰余金の配当をする場合は、純資産額から資本金や準備金を除いた金額(分配可能額)でなければできない(会社法第461条1項8号)などの制限がありますが、ギリギリまで配当を出す会社は多くなく、これが問題になることは粉飾決算があった場合などを除き、あまりありません。

よく問題になるのは、「剰余金の配当がその効力を生じる日」(会社法454条1項3号)を議案に記載し忘れている場合です。
このようなミスがあるのには理由があります。会社法になる前の商法の時代には、この要件が決議要件ではなく、そのため会社の使用している雛形にも記載がされていませんでした。平成17年に会社法ができ、「剰余金の配当が効力を生じる日」も決めなければならないことになりましたが、以前からのひな形を使っている会社は、令和になった現在も、この要件を議案に記載していないことがあります。
この要件がないと、厳密には配当の効力を生じる日がないことになり、すでに配当として渡した金銭が有効なのかという難しい問題が生じてしまいます。
慣例的に株主総会を行っている企業の方は一度、議案が以下のサンプルのようになっているか、確認をしてみてください

<サンプル>

1 配当財産の種類
  金銭
2 株主に対する配当財産の割当てに関する事項及びその総額
  当社普通株式1株につき    金○円
  配当総額       ○○○○○○円
3 剰余金の配当が効力を生じる日
  2020年○月○日

Q16 非上場企業が報酬議案を決議する際に気をつけるべきポイントは何ですか

A 報酬として決議すべき事項は意外に広いので、今回の議案が役員報酬のみの決議でよいか注意してください。

1 金額が確定しているものについては、その金額を決議してください

1回報酬枠を決議していれば、それ以降は枠内であれば総会決議は不要です。取締役会が各取締役の報酬決定をするが、普通は取締役会決議で社長一任とするので、具体的金額は枠内で社長が決定することになります。
取締役の任期ごとに報酬決定をする必要があるので、再選の場合は、取締役会で社長一任決議をとる必要があります。

2 金額が確定していないものについては具体的な算定方法を決議します。

総会で算定方法を相当とする理由を説明する義務があります。

3 金銭でないものについては具体的内容を決議します。

金銭でないもの、これが一番問題になります。具体的内容を決議で、低賃料による社宅提供、取締役の親族を保険金受取人とする生命保険契約、社長専用の高価な社用車など、も実は報酬となることが多いです。その場合には、その具体的内容を株主総会にて決議する必要があります。
社宅を安価に提供した場合の市場賃料と、実際に取締役が負担する賃料の差額分、つまり、正規家賃100万のところを、5万程度を会社に払う賃料とし利用しているという場合、95万分が決議すべき具体的内容となります。
また、退職年金(企業年金)の受給権を付与、そして生命保険の保険金請求権(会社が保険金を払い、取締役本人が亡くなった際にその家族に保険金が入る)の場合には、金銭でない報酬にあたり、その内容を相当とする決議が必要となります。

Q17 取締役の報酬を減額する際に気をつけるべきポイントは何ですか

A 本人への十分な説明と、同意書の取得をするようにして下さい。

一度決まった取締役の報酬は、原則としてその者が報酬額の減額について同意しない限り、担当職務を変更しても報酬額の減額は困難です。無論、例外的な場合もあり、本人が明らかに同意をしていなくても、黙示という同意があると認定できるという見解もあります。しかし、報酬などの減額について、黙示の同意の存在は簡単に認められるべきものではないとの裁判例もあります(名古屋地裁H9.11.21判決、福岡高裁H16.12.21判決)。実務で、どうしても報酬を下げたい場合は、当該取締役によく説明をした上で、同意書を交わすなど注意深く行う必要があるでしょう(なお、同意書があったとしても裁判所が無効と判断する可能性は皆無ではありません)。
報酬の問題は、取締役のパフォーマンスに問題があることから解任したような場合にもよく問題となります。会社と取締役との関係が委任契約であることから、会社はいつでも解任をすることができますが(会社法339条1項)、残りの任期分の報酬総額については正当な事由が無い限り支払うことになる場合がとても多く(会社法339条2項)、また正当な事由は一般の人が思うよりも狭く解されているように思われます。

Q18 取締役が退任する際に、株主総会決議を経ないで、役員退職慰労金を支給してしまった場合はどうしたらよいですか?

 臨時株主総会を開き、追認決議をすることが望ましいです。

社長や取締役が退任する際、株主総会決議を経ないで役員退職慰労金を支給してしまった場合、臨時株主総会を開き、決議を追加し、その決議をもとにお金を払うという風にしてください。つまり先にお金を渡していたとしても、それを仮払いにして、仮払いから本払いという風にしてください。期をまたいでしまうと帳簿処理が複雑になりますが、税理士とも相談しつつ、気が付いた時点で株主総会決議をとることが望ましいです。

Q19 役員退職慰労金の議案の注意点を教えて下さい

A 支給基準についての説明を求められた場合に備え、説明をする準備をしておいてください。

退職慰労金も報酬の一類型として、株主総会で決議されます。そのため、本来であれば株主はいくら退職金が出るかを知り、その可否について議決をするべきです。
ところが、日本では慣行から具体的なお金の金額を出すのは生々しいということで、「当社の支給基準に従い、相当の範囲内で支給することとし、金額、時期、方法等は取締役会にご一任いただきたく存じます」などと説明され、議決されることが多いです。
これが争われた裁判例では、支給基準(会社業績、退任取締役の地位・勤続年数・功績等から決まる)を株主が推知しうる状況において、基準に従い決定することを委任する趣旨の決議をするのであれば有効であるとしており、推知しうる状況とは、例えば本店に行けば規程が閲覧できるような状況のことをいいます。閲覧できる場合であっても、株主総会の議場において株主から質問があった際に、「閲覧をしてください」というだけでは適切な説明がなされたとは言えず、違法となる可能性が高いでしょう(東京地裁昭和63年1月28日判決参照)。

・[議案のサンプル]
議題 取締役1名に対し退職慰労金贈呈の件
議案 取締役○○は、本総会終結の時をもって任期満了により退任されますので、在任中の功労に報いるため、当社役員退職慰労金規程に基づき、相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈することといたしたく存じます。
なお、その具体的額、贈呈の時期、方法等は、取締役会にご一任願いたいと存じます。

Q20 株主総会で支給基準に基づく決定を委任された取締役会が基準に反して不支給または減額した場合はどうなるか?

 基準に反する不支給や減額については、不法行為が成立し損害賠償請求がされる可能性があります。

不支給又は減額に関する裁判例としては以下のようなものがあります。

①東京地判H6.12.20・・・不支給の事例
株主総会決議で、代表取締役を退任した者に対し退任慰労金を支給することとし、その具体的金額、時期、方法等の決定を取締役会に一任したのに、取締役会が具体的な支給に関する取締役会決議をしなかったので、支給をうけるはずの退任取締役が会社と社長に対し不法行為による損害賠償を求め、認められた事例です。

②東京高判H.9.12.4・・・取引損害の責任を取らされ減額された事例
退任取締役の退職慰労金について、株主総会で、会社における一定の基準に従い相当額の範囲内で取締役会に一任する旨決議し、これを受けた取締役会が、退任取締役が担当した取引により会社が被った損失を減額分として金額決定したところ、退任取締役が減額分を役員退職慰労金として請求し、認められた事例です。
※この判決だけが不法行為ではなく役員退職慰労金として請求を認めています。

③福岡地判H10.5.18・・・支払いを遅延された事例
株主総会において社内規定に基づいて退職慰労金を支払うこととし、金額等を取締役会に一任する旨決議し、これをうけた取締役会が、未回収の売掛金があることを理由に右支払は当該退職役員が回収してから支払う旨の決議をしたところ、退任取締役が、会社と社長に対し不法行為による損害賠償を請求し、認められた事例です。

④東京高判H12.6.21・・・退職慰労金が支給されなかった事例
株主総会において、退任取締役に対し退職慰労金を支給することを決定し、その金額などの決定を会社の取締役会に一任した場合であっても、取締役会で退職慰労金を支給する旨の決定がない限り、退職慰労金を請求できないと判断した事例です。
但し、判決文では「不法行為……損害賠償を求めることができるかどうかはともかく」という文言もあり、不法行為として請求がなされていたら損害賠償が認められた可能性もあると思われます。

⑤名古屋地判H14.1.17・・・支給が恣意的に低額であった事例
複雑な事例ですが、不法行為としての損害賠償が争点となった事例です。役員退職慰労金について功労加算をしなかったことは不法行為にならないが、「非常勤基礎給は……減額前の1375万円として算出すべき……30万円として算出したB社長の本件決定は……報復意図が容易に推認され、不法行為を構成する」という判断をした事例です。

②の判決例だけが不法行為ではなく役員退職慰労金として請求を認めています。
②は、支給基準を前提にして具体的支給額を取締役会で決議したが、その支給基準の判断に誤りがあった(支給基準には減額の場合も定められているが、本件では減額が認められない事案だった)ため、取締役会での支給基準があることを前提に減額されない役員退職慰労金の請求を認めたという意味だと理解できます。
他方で、②以外の判決例は、そもそも基準に沿っていない事案(不支給(①④)、基準が認めていない理由で減額した事案(③))、基準が認めている裁量権を逸脱した事案(⑤)であると理解できます。

以上の5判決例を公式化すると以下の整理ができるだろうと考えております。

株主総会で役員退職慰労金の支給を決議し(支給基準あり)、取締役会に一任した場合に、
・取締役会が決議しない、
・支給基準にない減額をする、
・事実上減額になる条件をつける(未回収を回収してから考える等)、
・支給算定基準の月額報酬を恣意的に大幅減額する、
等の事情があれば、不法行為が成立する。