公益通報の対象事実について(パワハラ防止法との関係で)

2022年6月1日に施行された改正公益通報者保護法について、いわゆるパワハラ防止法との関係で公益通報の対象事実の内容を確認しました。
パワハラに関する公益通報も少なくないと予想されますので、ご紹介します。

 

Q1 公益通報者保護法ではどのようなことを公益通報できるとしているのでしょうか?

A1 

公益通報者保護法では、公益通報として通報できる対象事実を以下の2つと定めています。

公益通報者保護法 第2条3項

① 公益通報者保護法並びに別表の法律が規定する犯罪行為の事実及び過料の理由とされている事実
② 別表の法律の規定に基づく処分に違反することが犯罪行為の事実又は過料の理由とされている事実となる場合の、当該処分の理由とされている事実

公益通報者保護法の別表では、刑法や食品衛生法、金融商品取引法等が対象とされておりますが、さらに対象法令を政令に委任しており、合計で493本もの法律が対象とされています(令和4年6月1日時点)。

①については、この493本の法律で刑事罰や行政罰の対象となる行為で、例えば、刑法の暴行罪に当たるような暴行行為によるパワハラ行為が該当します。

②については、直接刑事罰や行政罰の対象となる行為ではないが、その行為が命令等の対象となっており、その命令等違反が刑事罰や行政罰の対象となる場合に、命令等の対象となる行為を、公益通報の対象事実とするものです。

具体例でみると、通信販売の広告の際に必要な表示をしなかったこと(特商法11条)は、直接刑事罰や行政罰の対象とされていませんが、是正措置等の指示の対象となり(同法14条1項)、その指示に違反することは刑事罰の対象となるため(同法71条2号)、通信販売の広告の際に必要な表示をしなかったことが公益通報の対象事実となります。

このように、一見すると公益通報の対象事実とならないと見えるものであっても、②に該当して対象事実となることがありますので、ご注意ください。

 

Q2 パワーハラスメント(いわゆるパワハラ)の通報は、公益通報者保護法の公益通報の対象となるのでしょうか?

A2 

パワハラについては、一般的に以下の6つの類型に分類されています。

パワハラ6類型

① 身体的な攻撃(暴行・傷害)

② 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強要・仕事の妨害)

⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること・仕事を与えないこと)

⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 

このうち、暴行罪・傷害罪となる①身体的な攻撃と、②精神的な攻撃のうちの脅迫罪・名誉棄損罪・侮辱罪となるものは、刑法で刑事罰が定められているため、公益通報の対象事実となります。

他方、②精神的な攻撃のうち脅迫罪・名誉棄損罪・侮辱罪に当たらないものや③~⑥は、刑法や他の法律で刑事罰や行政罰の対象とされていないため、公益通報の対象事実にはなりません。

なお、いわゆるパワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)との関係で、これらの行為も公益通報の対象事実となるのではないかとお考えの方もおられると思います。

しかし、パワハラ防止法では、パワハラ行為をしたこと自体に対する刑事罰や行政罰を定めていません。

パワハラ防止法が行政罰を定めているのは、事業主がパワハラ防止に必要な体制や措置等について厚生労働大臣から報告を求められたにもかかわらず報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合だけです(同法41条、36条1項)。

そのため、脅迫罪等に当たらない精神的な攻撃によるパワハラについての通報や相談は、公益通報の対象にはなりません。

 

Q3 公益通報受付窓口に寄せられた通報について、脅迫罪等に当たらない精神的な攻撃によるパワハラであるため公益通報の対象にならないと判断して、公益通報として受け付けませんでした。ところが、後日、通報者から脅迫罪に当たるパワハラであったと争われ、結果的に脅迫罪が認定されてしまった場合は、公益通報対応業務従事者は通報に関して、公益通報者保護法の守秘義務(罰則としての刑事罰)を負うことになるのでしょうか?

A3 

公益通報対応業務従事者(以下、「従事者」といいます。)は、正当な理由がなく、公益通報対応業務に関して知り得た事項であって、公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないという守秘義務を負い、この守秘義務に違反した場合には、刑事罰が科されます(法12条、21条)。

この守秘義務については、公益通報であることが前提ですので、公益通報受付窓口で受け付けた通報であっても、通報内容が公益通報の対象事実でないために公益通報とならないものについては、守秘義務の対象にもなりません。

もっとも、公益通報であるか否かを判断することは簡単ではありません。

当初は公益通報の対象事実ではないと判断したけれども、後日に裁判となり、裁判所の判断が出て、その判断によれば対象事実であったことになってしまう(後日、そのことが明確になった)場合はどのように考えるべきでしょうか。

客観的には公益通報として扱うべき事実であったわけですから、従事者には守秘義務が生じていたことになります。

そして、その従事者が、正当な理由なく公益通報者を特定させる事項を漏らした場合は、客観的には守秘義務に違反してしまったことになります。

ただし、守秘義務違反として刑事罰が科されるためには、客観的要件を満たすだけでは足りず、主観的な要件である「故意」が必要となります。

故意がなかったと認められる場合には、刑事罰が科されることはありません。

設問の事例で、公益通報の対象とならないと判断して第三者に漏らしてしまった従事者が、どのような事実を認識していれば(どのような状況であれば)、故意があるということになり、守秘義務違反による刑事罰が科されてしまうかは、ケースバイケースで判断せざるを得ない問題です(この点について当事務所は確認のために消費者庁に電話問合せを行いましたが、個別事案によるもので最終的には裁判所の判断にゆだねられるとの回答を得ております。)。

このことからすると、公益通報受付窓口に通報又は相談があった場合、公益通報の対象事実か否かは慎重に判断すべきであり、安易に「対象事実ではない」と判断することは適切ではないと思われます。

リスク管理の観点からは、公益通報受付窓口に通報又は相談があったものについては、後日になって刑事罰の問題に直面しないためにも、守秘義務違反とならない徹底した情報管理を行うことを検討した方がよいかもしれません。