公益通報対応業務従事者と守秘義務について

2022年6月1日に施行された改正公益通報者保護法についてご質問をいただく機会があり、公益通報者保護法を確認しました。すべての事業者の方々に関係する法改正にもかかわらず、未だ詳細な解説がなされているとはいえない状況ですので、ご紹介します。

≪参考資料≫
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を計るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)

Q1公益通報者保護法で刑事罰としての守秘義務を負うことになるのは、どのような人をいうのでしょうか?

A1
公益通報者保護法では、公益通報対応業務従事者と公益通報対応業務従事者であった者(以下、「従事者等」といいます。)に守秘義務を課し(12条)、守秘義務に違反した者に刑事罰を科しています(21条)。

公益通報対応業務従事者とは、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者をいいます(指針参照)。

そして、従事者等は、正当な理由がなく、公益通報対応業務に関して知り得た事実で公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないと公益通報者保護法で規定されています。

このように、従事者等は、刑事罰としての守秘義務という重い責任を負わされることになります(刑事罰としての守秘義務を負う期間については、Q2参照。)。

ただし、刑事罰としての守秘義務を負う従事者等は、公益通報対応業務を行った者の全員が該当するものではありません。

改正公益通報者保護法上、刑事罰としての守秘義務を負うのは、事業者に定められた従事者等のみとされています。

そのため、公益通報対応業務を行ったとしても、事業者から従事者として定められていなければ、公益通報者保護法の刑事罰としての守秘義務を負うことはありません。

公益通報対応業務を行う者の負担を軽減するためには、事業者が従事者を定める範囲は必要最小限にするのが良いでしょう。

なお、従事者として定められていない者であっても、範囲外共有などを禁止した就業規則等に違反すると、当該規則等に従った懲戒処分を受ける可能性はあります。

 

Q2刑事罰としての守秘義務はいつまで負うことになるのでしょうか?

A2
公益通報者保護法は、従事者だけでなく、従事者であった者も刑事罰としての守秘義務を負うとしています。

そのため、従事者でなくなったとしても、刑事罰としての守秘義務を負うことになります。

さらに、公益通報者保護法では、刑事罰としての守秘義務を負う期間を定めていません。

したがって、一度従事者となった者は、いつまでも刑事罰としての守秘義務を負い続けることになります。

この点、刑事罰には公訴時効制度があり、公益通報者保護法の守秘義務違反は、3年経過すれば罪に問われないことになります(刑事訴訟法250条2項6号)。

しかし、この3年という公訴時効は、守秘義務に違反する行為をした時から起算されます。

また、一度守秘義務に違反する行為をしたからといって、守秘義務がなくなるわけではありません。

そのため、公訴時効制度によって従事者等が負う刑事罰としての守秘義務がなくなるということはありません。

例えば、従事者であった者が、従事者でなくなった時から10年後に公益通報対応業務で知った事項で公益通報者を特定させる情報を漏らした場合には、守秘義務違反として刑事罰が科されます。

ただし、上記の情報を漏らしてから3年経過したときには、公訴時効の3年が経過しているので、このことを理由として刑事罰が科されることはありません。

なお、これとは別に、新たに情報を漏らした場合には、その新たな情報漏洩を理由に守秘義務違反として刑事罰が科されることになります。

 

Q3どのような行為が公益通報者保護法の守秘義務の違反とされるのでしょうか?

A3
刑事罰の大原則として、「法律に特別の規定がない限り故意(罪を犯す意思)がない行為は罰しない」という考えがあります(刑法38条1項)。

そのため、不注意(過失)により誤って犯罪行為をしてしまった場合には、過失も処罰することが法律で定めていない限り、刑事罰を受けることはありません。

公益通報者保護法では、守秘義務に違反した従事者等は、30万円以下の罰金に処すると規定しています。

ここでは、過失で守秘義務に違反してしまった場合のことは規定されておりませんので、故意がある場合のみ刑事罰を科し、過失しかない場合には刑事罰は科さないということになります。

そのため、メールやFAXの誤送信によって誤って情報を漏らしてしまったような場合には、従事者等が守秘義務違反として刑事罰を受けることはありません。

この意味では、従事者等の守秘義務の範囲が制限されているといえます。

なお、公益通報者保護法では、守秘義務について、正当な理由なく公益通報対応業務に関して知り得た情報であって「公益通報者を特定させるもの」を漏らしてはならないと規定しています。

この「公益通報者を特定させるもの」には、公益通報者の氏名や社員番号が含まれるのは当然ですが、性別などの一般的な属性であっても、ほかの事項と照合することによって公益通報者を特定できてしまう事項も含まれます(「公益通報者保護法に基づく指針の解説」注6参照)。

このように、守秘義務として漏らしてはならない情報の範囲が不明確ですので、情報の取扱いには注意が必要です。

 

Q4労働者300人以下の事業者で公益通報対応業務従事者(以下、「従事者」といいます。)を定めていない場合、社内の相談窓口に公益通報がされたときは、公益通報に対応する者を一時的にでも従事者と定めなければならないのでしょうか?

A4
そもそも、今回の公益通報者保護法の改正で、労働者が300人以下の事業者は、公益通報対応業務を行う従事者を定めることや、公益通報体制の整備等を行うことは、努力義務とされています(11条3項)。

これは、実際に社内の相談窓口等に公益通報がなされた場合でも変わりません。

そのため、社内の相談窓口等に公益通報がなされて対応した場合であっても、対応した者を従事者と定める必要はありません。

 

Q5いわゆるパワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)も公益通報の対象になりますか?

A5
公益通報の対象は、公益通報者保護法が定める法律に違反する行為のうち、刑事罰または行政罰の対象となるものです(2条1項3項)。

そして、パワハラ防止法も、公益通報者保護法で公益通報の対象に含まれています。

しかし、パワハラ防止法に違反する行為がすべて公益通報の対象となるわけではありません。

パワハラ防止法で刑事罰または行政罰と規定されている違反行為のみが、公益通報の対象となります。

そして、パワハラ防止法で刑事罰または行政罰と規定されているのは、厚生労働大臣から求められた報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合です(パワハラ防止法40条1項)。

そのため、例えば、パワハラの相談に会社が適切に対応してくれなかったという通報があったとしても、この通報は公益通報ではありません。

なお、当然のことですが、パワハラ行為のうち殴る蹴るといった刑法の暴行罪・傷害罪等に当たる場合には、そのパワハラ行為を通報することは公益通報の対象となりますので、ご注意ください。