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紙の契約書を作成しなくても、当事者間の合意があれば契約は成立します。そのため、契約を締結するために、契約書を必ず作成しなければならないというわけではありません。
しかし、トラブルが発生したときなど、後から合意内容が問題となることがあります。この時に契約書がないと、合意内容を後から確認することが困難となります。特に契約の担当者が退職していたりして、契約締結当時のことを知る人が社内にいないときには、合意内容を確定することができなくなってしまいます。
そのようなことを避けるために、客観的な証拠として契約書を作成しておくことが重要です。
一度トラブルが生じると、損害賠償責任を負うこととなったり、そうでなくともビジネスがストップしてしまったりすることで、企業に損失が生じてしまいます。そのため、契約書を作成してトラブルに備えることは、企業のリスクマネジメントとしても重要です。
また、契約書を作成することは、トラブルを避けるためだけでなく、当事者間の認識に齟齬がないかを確認する意味もあります。これは、ビジネスを円滑に進めていくために非常に重要なことです。
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1 契約書を作成していたとしても、その内容によっては、トラブルを避けることができないこともあります。
法律の世界では、「契約自由の原則」があり、基本的に当事者間で契約内容を自由に決めることができます(民法521条2項)。そして、決めた内容に当事者は拘束されます。
しかし、この契約自由の原則も、無制限に認められているわけではなく、法令の制限内でのみ認められる原則です。
具体的には、契約書のある条項が、独占禁止法や下請法、借地借家法、労働法、消費者保護法などの強行法規に違反する場合、その条項や契約自体が無効となってしまいます。その結果、契約により目的としていたものが得られなくなってしまったり、損害賠償責任を負わなければならなくなったりすることもあります。
2 例えば、企業と消費者との取引(BtoC)では、公序良俗が問題となることが多く、特に労働法の分野でその傾向が顕著となっています。経営者の方の中には、従業員から合意書に署名や押印をもらえば、賃金の減額や残業代の放棄などを行うことができると考えている方がおられます。しかし、裁判所は、会社が従業員に内容を説明して、従業員が合意書に署名や押印をしていたとしても、その合意書を無効と判断することが良くあります。
退職金の減額に関する労働者の同意が問題となった山梨県民信用組合事件の最高裁判決は、要約すると、退職金減額を受け入れる旨の労働者の行為があったとしても、直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当ではなく、労働者の自由な意思に基づいて当該行為がなされたといえる合理的な理由が客観的に存在しなければならないと判断しています(最判平成28年2月19日労判1136号6頁)。これは要約ですが、この最高裁判例は実務に大きな衝撃を与えたものですので、以下のリンク(最高裁判所の「裁判例検索」が公表しているもので、下線も最高裁判所が付したものです。)から原文をご確認いただくことをお勧めいたします。
?最高裁判所「裁判例検索」 平成25年(受)第2595号 退職金請求事件 平成28年2月19日 第二小法廷判決 全文 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/681/085681_hanrei.pdf |
また、企業間の取引(BtoB)では、独占禁止法や下請法などの特別法によって制限が設けられており、これらに違反した場合には契約当事者の押印等があったとしても無効となってしまいます。
そこで、契約の内容が法律に抵触しないようにするために、きちんとリーガルチェックを行う必要があります。
3 また、契約書で記載されている言葉は、日本語のことが多いですが、日常用語とは異なります。
これは、契約書が、後から裁判官などの第三者が読むことを想定しているためです。すなわち、契約当事者ではない第三者が読んでも意味が伝わるように、用語のルールが必要なのです。
裁判官(弁護士もですが)は、法律の専門家ですが、業界の専門家ではありません。一部の業界では当たり前となっている業界用語を使用していた場合には、裁判官などの第三者に意味が伝わらないことが起こり得ます。例えば、貿易船に商品を積み込んで引き渡した時点で売主の引渡義務が完了することを意味する「FOB(Free on Board)」などの業界用語は、用語を説明しなければ裁判官に伝わりません。
また、契約交渉を行った担当者間では特定の意味を指していた単語が、一般的な用法ではなかったために、後日文言の解釈を巡ってトラブルとなってしまうこともあります。これは、当事者間では気づきにくい問題ですから、注意が必要です。
そのため、第三者が読んだ場合にも、当事者が意図している内容で読むことができるのか、意図していない内容に解釈される可能性がないかという観点からも、リーガルチェックをする必要があります。
客観的な証拠として契約書を作成したにもかかわらず、上記のことからトラブルを避けることができなくなってしまうと、契約書を作成する意味がなくなってしまいます。このようなことを避けるためにも、リーガルチェックは必須と言えます。
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1 弁護士は法律の専門家です。
契約書は、民法や商法等の基本的な法律だけでなく、その業種や取引に適用される特別法を抑えておかなければなりません。
見落としを防ぐためにも、法律の専門家である弁護士に契約書のリーガルチェックをお勧めします。
2 また、契約書だけで全てのトラブルを避けることはできません。ビジネスのためにはリスクを取って契約を締結するという選択をすることがあります。しかし、ビジネスに見合わない、会社の存続にかかわるようなリスクは回避したいと思うのが通常です。
そこで、弁護士が、法的な観点から考えられるリスクを調査し、契約書に潜むリスクを洗い出すことで、リスクマネジメントを踏まえた経営判断を行うことが可能となります。契約上のリスクについて、法律の専門家の意見を踏まえて具体的に検討することができます。
なお、単発のリーガルチェックは、顧問契約の場合と比べて、弁護士が把握できる情報が限定的であるため、上記のようなリーガルチェックを行うことが難しいこともあります。このことは契約書のリーガルチェックに限りませんが、企業のことをよく理解して初めて、丁寧かつ高度なリーガルサービスを提供することができます。
さらに、その結果トラブルが生じてしまった場合であっても、契約書のリーガルチェックを行った弁護士であれば、すぐにトラブルに対応することが可能となります。特に、顧問契約を締結していれば、企業の内情をあらかじめ把握していますので、より迅速かつ適切に対応することができます。
当事務所は、契約書業務に力を入れており、高品質かつ迅速な契約書審査を目指しております。
表面的なチェックではなく、企業の事情や取引の実情、相手方企業との関係等を十分にお聞きした上で、企業に適したご提案をしております。
また、契約書の一部について少し気になるといったことでもご対応しております。
お手元の契約書について、少しでも気になることがございましたら、当事務所までお問い合わせください。
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