NDA(秘密保持契約)で注意すべきことは?

NDA(秘密保持契約)は、様々な取引の場面で締結されており、企業法務においてありふれた契約の一つとなっています。このことから、契約書ひな型を利用して、深く検討せずに契約を締結していることが少なくないように思います。

しかし、NDAは、企業の重要な財産である秘密情報を守る契約です。NDAの内容が不適切な場合には、秘密情報を守ることができず、企業の損害となってしまうかもしれません。また、思いもかけずに相手方からNDA違反を指摘されて、甚大な損害賠償責任を負わなければならなくなってしまうかもしれません。
これらの事態を回避するために、NDAのポイントを押さえておきましょう。
なお、一般的なビジネス契約書に関する注意点については、こちらの記事をご参照ください。

【目次】

1 NDAのポイントとは?

  ① 秘密情報の定義が適切か
  ② 秘密保持義務が解除される場合とは?
  ③ 目的外使用の禁止の意義は?
  ④ 複製物の取扱いは定めておかなければならない?
  ⑤ 秘密情報の返還・破棄を定めていなかった場合のリスクとは?
  ⑥ NDAの契約当事者は誰か?
  ⑦ 損害条項で注意することとは?
 2 NDAと個別契約で秘密保持義務条項を定めることに違いはありますか?
 3 不正競争防止法の「営業秘密」とはどのような関係になりますか?
 4 NDAに関するご相談は当事務所

 

1 NDAのポイントとは?

ここでは、NDAを締結する際に抑えておくべきこととして、7つのポイントを解説します。

① 秘密情報の定義が適切か

(1)NDAでは、秘密情報を第三者に開示・漏えいしてはならないとする秘密保持義務を主な内容としています。

しかし、この秘密情報という言葉は、法律で定義付けされたものではありません。そのため、秘密保持義務の対象となる秘密情報は何を指しているのかということを、各契約で明確に定義付けする必要があります。
この定義付けで、企業が守りたいと考えている情報が含まれるようにしておかなければ、その情報をNDAで守ることができなくなってしまいます。そのため、この秘密情報の定義をどのように定めるかということは、NDAにおいてもっとも重要と言っても過言ではありません。

(2)秘密情報の定義として、「契約当事者の一方が相手方当事者に開示する一切の情報」とするように、包括的な定義をすることがあります。

これは、情報を開示する側(以下、「情報開示者」といいます。)からすれば、開示する際に秘密情報に該当するか否かを判断する必要がなくなり、開示するすべての情報が秘密情報として保護されることになります。そのため、一般的に、情報開示者に有利な定め方と言えます。

他方、情報を受領する側(以下、「情報受領者」といいます。)からすれば、開示された情報の全てを秘密情報として管理しなければならなくなり、負担が増えることとなります。そのため、このような包括的な定義付けは情報受領者が受け入れられないこともあります。

このような理由から、包括的な定義を定めるのではなく、秘密情報を一定のものに限定した定義を定めることも少なくありません。例えば、「契約当事者が相手方当事者に対して開示する情報のうち秘密である旨を表示したものを秘密情報とする。」と定義する場合があります。このような定義であれば、何が秘密情報となるかも明確ですし、秘密情報の範囲も限定できますので、契約当事者は受け入れやすいものと言えます。
もっとも、このような定義とした場合には、情報開示者は、秘密である旨の表示を失念しないよう注意する必要があります。秘密である旨の表示を忘れてしまうと、どんなに重要な情報であっても、NDAで守ることができなくなってしまうためです。

(3)さらに、場合によっては、契約当事者の一方が開示する情報だけでなく、NDA自体や取引交渉の存在、その内容も秘密情報に含めることもあり得ます。

特にM&Aなどの場面では、このような取扱いをすることが多いように思います。

② 秘密保持義務が解除される場合とは?

秘密情報は、個別契約の締結や継続的取引という目的のために開示されるものです。そのため、これらの目的に必要な範囲で秘密情報を利用できなければ、開示する意味がなくなってしまいます。

そこで、秘密保持義務の例外として、情報受領者やグループ会社の役員、従業員、弁護士、公認会計士、税理士、アドバイザーなどに秘密情報を開示できるよう定めておく必要があります。この点、情報受領者の役員や従業員に開示できるのは当然と考える方が多いと思います。しかし、役員・従業員は、秘密保持義務を負う企業とは別人であり、法律上は開示してはならない第三者に該当します。そのため、役員や従業員に秘密情報を開示できることを、NDAで明確に定めておくことが必要です。
また、M&Aの場面では、登場人物が多数となることから、特に、情報受領者を厳格に特定して定めることが多いです。
さらに、NDAの目的である取引において、金融機関から融資を受ける予定である場合には、この金融機関に対して秘密情報を開示できることを定めておく必要があります。
なお、これらの第三者についても同様の秘密保持契約の締結が要請され、漏洩した場合には契約当事者(NDAの契約当事者である企業)の責任とする旨が定められることが多いです。

③ 目的外使用の禁止の意義は?

NDAで秘密情報を守るためには、第三者への開示・漏えいを禁止するだけでは足りません。第三者への開示・漏えいを禁止しただけだと、情報受領者は、秘密情報を自身の中で自由に使用することができてしまうためです。
例えば、競業関係にある他社と共同研究するためにNDAを締結して情報を開示する場合、開示した秘密情報を共同研究に使用せずまたは共同研究に使用しつつ、情報受領者単独の事業に利用されることはあってはいけません。
これを回避するためには、秘密情報をNDAの目的以外に使用することを禁止する必要があります。
つまり、この目的外使用の禁止のためにも、NDAの目的を明確に定めておくことはとても重要になります。

④ 複製物の取扱いは定めておかなければならない?

NDAにおいて複製を禁止する定めを置かなければ、秘密情報を複製することは自由となります。実際の取引においても、NDAの目的である取引を行うためには、秘密情報を複製することが必要なことも少なくないと思います。
しかし、複製されることにより、秘密情報が第三者に漏えいする危険性が高まってしまいます。
そのため、企業にとって重要な価値のある秘密情報を開示する場合には、情報受領者による複製を禁止し、例外的に承諾した場合に限り複製を許すという内容の条項を定めておくことも考えられます。

なお、秘密情報を複製した物が秘密情報に含まれるか否かは、秘密情報の定義付け次第です。そのため、複製した物が秘密情報に含まれるか否かという観点からも、秘密情報の定義付けを検討する必要があります。

⑤ 秘密情報の返還・破棄を定めていなかった場合のリスクとは?

NDAによる秘密保持義務は、契約期間が終了したときまたはNDAで定めた有効期間が終了したときまでです。この期間が過ぎてしまうと、情報受領者は秘密情報を第三者に開示することができてしまいます。
しかし、情報開示者としては、むやみに第三者に開示されることは避けたいと思われることも少なくないのではないでしょうか。この点、開示した秘密情報を返還・破棄しておけば、情報受領者から第三者に開示されることを事実上防ぐことができると言えます。
また、不必要となった秘密情報を情報受領者に残しておくことは、情報漏えいのリスクを高めることにもなります。情報漏えいのリスクを低くするためには、不必要となった秘密情報は返還・破棄できるようにしておく必要があります。
他方、情報受領者としても、秘密情報を返還・破棄することとしておけば、契約期間終了後に情報漏えいが生じたとしても、責任を問われるリスクを減らすことができます。
これらの観点から、NDAでは、契約期間が終了したときや情報開示者が求めたときに、秘密情報を返還・破棄するという内容の条項を定めておくことが重要です。

なお、秘密情報の返還・破棄を定めていた場合でも、返還・破棄を行うことが難しいことなどから、実際には返還・破棄していないことも少なくないようです。この場合、契約書の条項が実際の運用と合っていないことがクローズアップされてしまい、NDAの拘束力が弱まってしまう可能性があります。
そのため、秘密情報を返還・破棄する必要性がそれほど高くない場合には、秘密情報の返還・破棄の条項を削除することも選択肢の一つとなります。

⑥ NDAの契約当事者は誰か?

M&Aや共同開発研究等、NDAの目的である取引が3名以上の当事者により行われる場合、NDAの当事者に注意する必要があります。
具体的には、秘密情報を受領する可能性がある者が複数いる場合に、秘密保持義務を負う情報受領者に漏れがないかを確認しなければなりません。
特に、グループ会社が情報を受領する可能性がある場合には、情報を受領する可能性のあるグループ会社がNDAの契約当事者に含まれている必要があります。
グループ会社が実際には秘密情報を受領するが、そのグループ会社はNDAの契約当事者にはなっていない、という場合は注意が必要です。秘密保持義務を負わせるためには、義務を負わせたい者の全てをNDAの契約当事者とする必要があります。先ほどの場合は、情報を受領するグループ会社を必ず契約当事者にしてNDAを締結するようにして下さい。

⑦ 損害条項で注意することとは?

⑴ 秘密保持義務違反があった場合、損害賠償請求をすることができます。
この時に請求できる損害は、原則として民法416条に従うこととなります。民法416条が定める損害よりも請求できる範囲を広げたい場合や逆に制限したい場合には、NDAでその内容を定めておく必要があります。これは、他の契約書と同じ考え方です。
⑵ これに対して、NDA特有の問題点があります。それは、秘密保持義務違反を理由に賠償請求する損害額の算定が困難であるということです。これは、秘密情報の価値の評価が難しいことや、秘密情報が漏えいしたことにより企業に生じた損害を計算することが困難であること、また、損害について秘密情報が漏えいしたことによって生じたといえるか(相当因果関係)の立証が困難であることなどが理由です。
NDAと同様に、営業秘密の漏えい等について損害賠償請求を認めている不正競争防止法は、その5条で損害額の推定を規定していますが、NDAにはこの適用はありません。そのため、秘密保持義務違反があった場合の損害額をあらかじめNDAで定めておくことが考えられます(賠償額の予定(民法420条1項))。これにより、秘密保持義務違反があった場合には、損害額を証拠によって立証することなく、定めていた損害額の賠償を得ることができます。もっとも、契約ですから相手方が同意しなければ締結できませんし(高額の賠償額の予定は成立しにくい)、賠償額が低い場合は秘密情報の漏洩の抑止力にならないという問題があります。

⑶ 仮に秘密保持義務違反により発生した損害額が、あらかじめ定めていた損害額よりも高額となってしまった場合には、その差額分は請求できなくなってしまいます。そこで、損害額を定める場合には、実際に発生した損害額がこれを超えた場合にはその超えた部分についても賠償請求することができる旨をNDAで定めておくことも可能です(双方の同意に基づく契約ですから、相手が内容に同意した場合に限ります。)。

2 NDAと個別契約で秘密保持義務条項を定めることに違いはありますか?

契約で相手方に秘密保持義務を負わせる方法としては、NDAを締結する方法と、個別契約の中の条項のひとつとして秘密保持義務に関する条項を定める方法の2つがあります。
いずれの方法であっても、法律上の効力に差異はありません。
しかし、契約を締結する時期との関係で、実務上の差異が生じる可能性があります。これは、契約を締結した時点で、秘密保持義務が発生することから生じるものです。

具体的には、NDAではなく個別契約で秘密保持義務を定めた場合、原則として個別契約の交渉段階で開示した情報は秘密情報に含まれません。秘密情報の定義において、個別契約の交渉段階で開示した情報も秘密情報に含むと定めた場合には、秘密情報に含まれることになります。しかし、個別契約の締結前にすでに第三者に開示・漏えいしてしまっていた場合には、そのことをもって秘密保持義務違反と主張することはできないと考えられます。
特に、契約締結の交渉段階で重要な情報を開示する必要がある場合には、個別契約の交渉に入る前に、NDAを締結しておかなければなりません。例えば、M&Aでは、交渉開始の前にNDAを締結することが通常です(M&AではNDAのときから既に契約交渉が始まっている、という言い方もできます)。

3 不正競争防止法の「営業秘密」とはどのような関係になりますか?

NDAの秘密情報と類似のものとして、不正競争防止法の「営業秘密」があります。
しかし、NDAの秘密情報と不正競争防止法の「営業秘密」は重なる部分はありますが、一致するものではありません。
NDAの秘密情報は、NDA自体で定義付けをすることができます。他方、不正競争防止法の「営業秘密」は、不正競争防止法2条6項で3つの要件が定められており、この要件を満たすもののみが「営業秘密」として保護されます。この「営業秘密」の要件は、ハードルがとても高く、裁判でも「営業秘密」の該当性が問題となることが多いです。
しかし、「営業秘密」の3つの要件を満たさない情報であっても、企業として価値があり、秘密としておきたい情報も存在します。このような情報を保護することに、NDAを締結する意義があります。

なお、不正競争防止法の「営業秘密」については、こちらの記事もご参照ください。

4 NDAに関するご相談は当事務所へ

繰り返しになりますが、NDAは、企業の重要な財産である秘密情報を守る契約です。目にする機会が比較的多い契約書だからと言って、安易に締結することには注意が必要です。
当事務所では、契約書審査を取扱分野の一つの柱として重視しております。弁護士が、法律の専門家としてNDAをリーガルチェックし、企業の重要な情報を守ります。そのため、企業の皆様には、弁護士のリーガルチェックを踏まえて、ビジネスを進めていただくことができます。
NDAで気になることがありましたら、当事務所へご相談ください。
なお、当事務所では、顧問契約とは別に、契約書審査に特化したアウトソーシングプランを用意しております。すでに顧問弁護士がいらっしゃる企業様も、こちらのアウトソーシングプランをご利用いただけます。詳細は、以下のページをご覧ください。

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